ロシア側の狙いは明らかだ。戦闘で疲弊している第110独立機械化旅団をはじめ、ウクライナ軍の守備隊を消耗させることで、ウクライナ側に対して、アウジーイウカを放棄するか、それとも、ほかの前線の貴重な旅団を増援に回すかという厳しい選択を強いることだ。
ウクライナ側はこれまで、ロシア軍の前進をおおむね押しとどめている。大きく貢献しているのが火砲だ。ウクライナの守備隊は3週間にわたり、攻撃してくるロシア軍の縦隊を砲撃で次々につぶし、兵士2000人・車両数百台という1個旅団規模の損害を与えたと伝えられる。
アウジーイウカに配置されているウクライナ軍の複数の歩兵旅団は、それぞれ大砲やロケット発射機を装備している。だが、このエリアで基幹の砲兵火力を有するのは第55独立砲兵旅団である。
この旅団は強力であり、アウジーイウカ周辺で繰り広げられている苛烈な戦いでその本領を発揮している。
ウクライナ軍に14個ある独立砲兵旅団のひとつである第55旅団は雑多な火砲を装備する。それには旧ソ連製の2A36「ギアツィント-B」カノン砲や2A65「ムスタ-B」りゅう弾砲のほか、西側から供与されたカエサル自走りゅう弾砲少なくとも10両が含まれる。
トラックの荷台に155mmりゅう弾砲を載せたカエサルは、第55旅団が保有する唯一の自走式りゅう弾砲とみられる。集中的な戦闘ではとりわけ貴重な兵器だ。ウクライナ軍のある砲兵は「カエサルは射撃陣地に入ってから射撃するのに1分もかからない」とラジオ・フリー・ヨーロッパに語っている。「目標に射撃してから陣地を離れるのも3分から5分だ」
射撃後、素早くその場を去ることで、カエサルはロシア軍による対砲兵射撃を回避できる。カエサルに反撃するには、ロシア側は三角測量によって射撃地点を割り出し、ドローンを送ってカエサルを発見し、自らの火砲で応酬するという過程を3分以内で行わなくてはならない。
ロシア軍がアウジーイウカでの作戦に先立ち対砲兵戦術を練り上げたにもかかわらず、第55旅団のカエサルを1両も撃破できていないとみられるのは、理由のないことではないのだ。