問題になっている自然環境破壊といった一番重要なことをある程度、無視しなくてはならなくなります。結局、自然を食いつぶしながらマネーゲームをしています。このままだと地球が破壊され、いつかは破綻します。気づいているけど降りられないという人が大多数です。いち早く行動を起こす人から変わり始めていますが、株主が第一優先の資本主義は終わらせなければいけないと思います。
中野:ブルネロ・クチネリの人間主義的資本主義のように、代替の可能性を示すケースも出てきていますが、利益と社会正義とのバランスをどのようにとるのが問われている時代です。株主資本主義に反発して社会正義のための投資に行きすぎると、それはそれでグリーンウォッシュと批判されたり、ウォーク・キャピタリズム(社会正義に目覚めた資本主義)と揶揄されたりすることもあって、悩ましいところです。
須永:私の世代がそんな状況を壊す最後の世代なのかなと思っています。次の世代にバトンタッチできるようにしたいのです。株主資本主義はいずれ終わると思いますが、短期的なことではなさそうで、私が生きている間は逃げられそうにない。だからこそ、その間をつなぐ役割を果たしたい。富裕層にここを通っていただく必要がある。資本がここを通ればいいのです。
中野:「ここを通っていただく」(笑)。どういうことでしょうか?
須永:お金を儲けるとか、利益を出して株主に還元することではなく、お金が私たちの会社を通れば社会や文化や地域環境に還元できる、そんな会社であると自負しています。だから富裕層の方を含め、意志あるお金が私たちを通ってくれればいい。私たちには活動に必要なお金さえ使わせていただければ、株主を含めた私たちに残る必要はないのです。そのために私がAINUSホールディングスの100%株主なのです。
中野:次の世代になるとそんな視野をもつ起業家もさらに増え、消費者の意識も違うものになっているでしょうから、世界も変わりそうです。須永さんはそのような次世代へバトンタッチをする役目を自認していらっしゃるのですね。衣食住にわたり奮闘する姿勢を、頼もしく思いました。ありがとうございました。
須永:私のほうこそ、『新・ラグジュアリー』を読んだときに、私が実行しようとしていることを一語で言語化してくれたことに感謝いたします。ことばは市場を作りますから。新ラグジュアリーという新市場の始まりですね。
以上のようにお話を伺いました。まだ船出をしたばかりのプロジェクトで、300年先への未来への種まきがなされたばかりの段階です。『新・ラグジュアリー』の思わぬ影響にも、嬉しい反面、照れまじりの戸惑いもあります。
本の影響の有無はさておき、実際、日本のあちこちの地域でほぼ同じ方向を目指す起業や自治体の動きが盛り上がり始めています。須永さんのプロジェクトのみならず、できるところから変わり始めようとしている日本の今の状況に対し、安西さんのご見解を伺えますと嬉しいです。