中野:修道僧のイメージもありますね。日本的な感じもするけれど、無国籍的で未来的な魅力もあります。シーズンも問いませんし、トレンドとも無関係。素材も作りも美しいラグジュアリー製品です。
須永:これが売れない理由がないのです。ただ、生産の課題はあります。紬とニットを縫い合わせる技術がとてつもなく難しいのです。日本でこれができるのは、現在たった一人しかいません。日本で「ラグジュアリー」が存在しないので、経験のある人がいないのです。
中野:育てればそれができる人が出てきますね。学ぶ意欲のある方に教えればすぐに修得されそうです。
須永:そもそも世界一のものを作れる国です。だからMIZENには可能性しかないのです。プロジェクトと名付けた理由も、長期の時間軸で考えているからです。デザイナーが変わってもプロジェクトが続き、300年後にもMIZENがある、そういう単位で見ています。
徳之島にラグジュアリーホテルを作る意味
中野:各地の職人の支援は地方創生にもつながりますが、地方創生に関わる事業という意味では、須永さんは徳之島にもホテル「結那 YUUNA」を建てていますね。須永:ふるさと納税のお金をどこに投資すると効果が高いかと考えたときに、調べた結果、観光そして宿泊という結論に至りました。そもそも地方にはラグジュアリーホテルがほとんどありません。自治体に提案してもやろうとはしないので、私がやることにしました。
経済的インパクトをきちんと出せるようにしたくて、なるべく小さな自治体がよいと思い、徳之島町を選びました。ここは人口が約1.1万人で年間数千億円くらいの経済規模なのですが(参考までに鹿児島市は人口約60万人で2兆円の規模)、そこにラグジュアリーホテルができると、客が落とす金額が変わります。そこにくる企業も変わり、売れるものも変わり、経済効果が雪だるま式に替わります。その成功事例を作る大本を作りました。
中野:ホテルの収入は徳之島町とシェアされるのですか?
須永:そのように申し出たのですが、お断りされました(笑)。使っていなかった土地に命を吹き込んでくれてありがとう、と感謝されています。固定資産税も発生しますし、経済効果もある、企業誘致と考えればそれだけで十分であるとのことでした。
中野:地域への貢献効果は大きいですね。
須永:なにより住民の方がとても喜んでいるのがうれしいです。説明会で趣旨も丁寧に話しているのですが、徳之島の人も、いつかここに泊まるのが夢、と言ってくださっています。
資本主義を利用して世界を変える
中野:さらに自然栽培農家を支援し、自然の多様性に回帰する食に関する事業も展開しています。衣食住、すべてにわたり長期的なサステナビリティと川上で仕事をする人々を守ることを視野に入れられていますが、そもそもなぜITの世界からこうしたオーガニックなビジネスに足を踏み入れられたのでしょう?