ドイツと有松 海外インターンを通じて地域の企業が学ぶこと

有松鳴海絞りの100種類以上ある技法を、地域の熟練の職人やスタッフに教えてもらい技術を学ぶ

日本でも多くの大学生が経験するインターンシップですが、欧州の場合は、学生が3カ月から半年ほど企業で働きながら将来やりたい仕事を体験するというのがノーマルになっています。報酬はなく、教育機関はそれを制度として盛り込み、学生は必須科目として卒業をするのに必要な単位になっていることが多いです。

学生にとっては、普段大学の教室で学べないことを先輩たちから直接聞ける機会であり、企業にとっては、これから社会に出ていく10代、20代が何に関心を持ち、何を価値として感じ、どういった視点で社会や未来を見ているかをヒアリングできる機会です。

特に欧州では、さまざまな国から来るインターン生の価値観を見ることで、まさにこの連載のテーマである「異なる文化と多様なものさし」を肌で感じられます。

ドイツでインターンをやってみた

僕自身は学生時代にアートを専攻していました。同じ大学に通うほとんどの学生が“就職”を想定していないため、本来必須の科目ではなかったのですが、僕は会社を始めるしばらく前に服づくりに興味があり、デュッセルドルフにある小さなブランドのドアを叩いて1年ほどインターンをさせてもらいました。

ドイツに来て2、3年目で、まだ言葉もままならない時期でしたが、パターンの引き方やボタンホールの開け方、簡単なミシンの使い方などを教えてもらい、普段の大学での授業とは全く違う実践的な経験をしました。服づくりに関する多くのことをこのデザイナーから学びました。当時は起業やブランド設立をまだ考えていなかったのですが、この経験は後に大きな役割を果たすことになります。

今思い返してみると、そのデザイナーは、最初から僕を「変わった若者だ」という目で見るということもなく、ごく普通に受け入れ、一緒に働くという態度で接してくれました。僕はいろいろな手伝いを通じて学び、彼女は無償で人手を得られるというWIN-WINの関係がありました。

産地で海外インターンを受け入れる

会社を始めてから半年程経った頃、ドイツでテキスタイルを専攻している学生から、「絞りに興味があるので産地である日本の有松でインターンをしたい」という話をもらいました。

当時は有松に会社がなく、父がいち職人として働いていた時期。英語が全くできない父がうまくやれるのか……と思って相談すると、「大丈夫、やってみる」ということになり、ドイツ人の女子大生と地方の町の職人のおじさんの6カ月が始まりました。

 (左) Dominique Lanz スイスからの学生。Annemarie Clara Rinckens  (右)ドイツから。絞りの染色の後の「糸抜き」と呼ばれる糸を解いている工程。

(左)スイスからの学生 Dominique Lanz。(右)ドイツからきたAnnemarie Clara Rinckens。絞りの染色の後の「糸抜き」と呼ばれる糸を解いている工程。

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文・写真=村瀬弘行

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