バングラデシュに「眠る」服が95億ピースも。ヨシオクボが工場を救う

(左から)ウィファブリック代表・福屋剛、デザイナーの久保嘉男

ファッションブランド「yoshiokubo(ヨシオクボ)」が、バングラデシュの縫製工場の労働者と行き場を失ったキャンセル品を救うアップサイクルプロジェクト「PHOENIX LAB.PROJECT」をスタートする。

パートナーは、サスティナブルアウトレットモール「SMASELL(スマセル)」を運営するウィファブリックと、バングラデシュに特化したアパレルの製造・卸事業のわんピース。プロジェクトの第一弾コレクションとして、デザイナー・久保嘉男によるオリジナルデザインの刺繍を施したデニムパンツやベストなど20点以上を展開する。

9月15日からは大阪のLUCUA 1100でのポップアップ(9月21日まで)と、「スマセル」内での販売をスタート。10月には阪急百貨店でのポップアップも決定している。

行き場のないキャンセル品が95億ピースも

PHOENIX LAB.PROJECTの発起人は、ウィファブリック代表の福屋 剛。取引先のわんピースの山口悠介代表から「バングラデシュの縫製工場が、かなりまずい状況だ」と聞いたことがきっかけだった。

衣料品の一大生産拠点として有名なバングラデシュだが、コロナ禍で縫製工場は大きなダメージを受けていた。世界的な衣料品の需要減少を背景に、欧米のアパレル企業からのオーダーの延期やキャンセルが相次いでいたのだ。完成した服の状態になっているものの、納品先のないキャンセル品は、2020年4月時点で3100億円分以上、95億ピースにものぼっていた(バングラデシュ縫製品製造輸出業協会)。

これにより操業を停止する工場も相次いだ。そこで働いていた人々は職を失い、生活が困窮するという悪循環も生まれ、大規模デモにも発展した。

実情を知った福屋は、この深刻な課題を解決できないかと考えた。海外では少しずつ取り組む事例も出てきていたが、日本ではまだ前例がなかった。「新しいデザインにアップサイクルし、それを販売することができれば」と構想する中、出会ったのがデザイナーの久保嘉男だった。

ヨシオクボはサステナビリティに関する取り組みを表立って打ち出してきたブランドではない。久保も「大量生産とは対極にあるブランドなので、販売ロスやキャンセルとも縁遠かった」と話す。ただ、久保はちょうどこのとき、刺繍やパッチワークなどのハンドワークに関心を持っており、伝統的な刺繍が有名なバングラデシュの話にも興味を持ったのだという。

「たまたまこの時期に、自宅の倉庫でパッチワークのサンタクロースのぬいぐるみを発見したんです。僕の母親は縫い子だったんですが、そのぬいぐるみも弟が生まれたときに母がつくったもので。古いものですが、手仕事なので味があるし、不思議と捨てようと思わなかった。そうしたハンドワークを自分のコレクションで使ってみるのもいいなと思っていた矢先に、福屋さんからお声がけがありました」


キャンセル品に刺繍を施してアップサイクルすれば、簡単には捨てられない、愛着を持って着つづけてもらえる服になるのではないか──。2人の考えが一致し、プロジェクトが動き出した。
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文=尾田健太郎 取材・編集=田中友梨 撮影=小田光二

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