たとえば、MIZENというプロジェクトが2022年4月に始動しました。「日本の伝統技術を担う職人たちが主役となるラグジュアリーブランドを築き上げるプロジェクト」です。エルメスはじめヨーロッパのメゾンで11年デザイナーとして働いた寺西俊輔さんが代表を務めるARLNATA(アルルナータ)、「ふるさとチョイス」のトラストバンク、そして同バンクの創始者/会長である須永珠代さんが代表を務めるアイナスホールディングスが合同で設立しました。
世界に伝統織物を輸出しようとするとき、たとえば洋服幅の150cmで織ってくれという要望を受けることがあります。こうした要望に応えることができる体力のある産地は、それはそれで称賛に値し、前例のない織機から制作して躍進した成功例もあります。
ただ、ほとんどの産地はそのような設備投資もままならず、そもそも職人が高齢で新しい織機に適応することに戸惑います。そこでMIZENは、職人の負担にならないよう従来の着物幅のままに素材を使い、高レベルの技術を駆使してニットと組み合わせることで、まったく新しい感覚の洋服を創り上げました。それを宣伝・販売していくなかで、日本の12の伝統工芸の産地と職人にスポットライトを当てています。
デザイナーの寺西さんを後押しする強力な出資者である須永珠代さんにお話を伺いました。
庶民の知恵と工夫から生まれる日本独自の空気感
中野:アイナスホールディングスは衣食住(旅)、すべての面にわたり、新しい時代を創ることを視野に入れたビジネスを展開しています。まずは衣の分野、MIZENのプロジェクトを始められたきっかけをお聞かせいただけますか?
須永:ふるさとチョイスの仕事をしていたときに、サプライチェーンの最上流にいる農家や職人さんと出会う機会がありました。上流にいればいるほど株主資本主義から取り残され、経済的に困窮しているのです。情報でモノを売る下流のビジネスに利益が集まり、まじめにモノを作っている職人が儲からない。美しくて人を感動させるものに価値がついていない、それどころか淘汰されようとしている、それはおかしなことです。大事なことは守りつつ、表現やデザインを通して現代に合わせる、そこを埋めてあげればと思ったのです。
中野:デザイナーであるアルルナータの寺西さんとはどのように出会われたのですか?
須永:私は奄美大島の住民でもあるのですが、たまたま、大島紬で洋服を作っている人がいるよ、と紹介されたのが寺西さんでした。一顧客としてのおつきあいから始まりましたが、アルルナータの洋服はもちろん、考え方が素晴らしいので、支援したり、ビジネスのコンサルをしたりするようになりました。アルルナータが大きくなることは日本の伝統文化にとって重要だと思い、資金を出して支援することを決めました。
中野:寺西さんには別の機会にインタビューしたことがあります。ヨーロッパで最も評価されるのは日本の職人技術だ、とおっしゃっていたことが印象に残っています。なかでも、もともと将軍や公家のために作られていた高級品ではなく、庶民が知恵と工夫を駆使した技術から生まれる工芸品の知的な空気感は日本独自のもの、という視点に感銘を受けています。今日、須永さんが着ていらっしゃるケープにもそんな空気感がありますね。