白坂先生:私は大学院で航空宇宙工学を専攻して、卒業後は電気メーカーで衛星の開発に携わっていました。慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科は、日本初のシステムデザイン・マネジメントに特化した研究科として、2008年に開設されました。
開設前の2004年から2006年にかけて、システムデザインのサマースクールが開講され、そこで非常勤講師として大規模複雑システム開発の方法論を教えていたのが、私が本校に着任したきっかけです。このサマースクールの参加者の多くは、宇宙開発関係者だったんですよ。このサマースクールをベースとしてつくられたのが、システムデザイン・マネジメント研究科です。
せりか:海外には、システムデザイン・マネジメントに特化した大学院はあるのでしょうか?
白坂教授:マサチューセッツ工科大学に設置されていますね。実は、弊学の開設が決まった後に、知ったそうです(笑)。そのほか、シンガポールにも2校あります。
せりか:世界的に見ても、システムデザイン・マネジメント研究科がある大学は少ないんですね。
白坂教授:そうですね。システムデザイン・マネジメントは、アカデミアと馴染みが悪い分野なんですよ。大学は、専門性を追求する場です。一般的には、特定のテーマを深く追求します。システムデザイン・マネジメントのような複合的な学問分野は、広がりづらいのではないかと思います。その一方で、社会実装に近いので、企業との連携は図りやすいと言えます。
せりか:世界から見て、日本のシステムデザイン・マネジメントはどのような立ち位置にあるのでしょうか?海外の潮流から日本が学べることはありますか?
白坂教授:システム的に考える、つまり全体最適を考えたシステム設計は、アメリカがリードしていると思います。最新のシステム開発の世界では、今もアメリカから学んでいるところが多いですよ。とはいえ、全てがアメリカ発かというと、そんなに単純な世界ではありません。アメリカのやり方がいいときもあれば、日本のやり方をアメリカが取り入れるときもあります。この往復を繰り返すことで、より高度な社会システムが作られてきています。
システムエンジニアリングは、1960年代に進み、アポロ計画で使用された宇宙機の開発などがベースになっていると言われています。そして、1969年にシステムエンジニアリングブームが起きました。
その次の動きは1994年。日本がバブルで、世界的な競争力を持っている時代でした。アメリカは日本の競争力の源泉を研究し、やはりいわゆるトヨタ自動車の「カイゼン(※)」に目を付けました。それまでのシステムエンジニアリングでは、オペレーションリサーチと呼ばれる数学を用いた最適化手法を、マネジメントに取り入れるものが注目されていました。しかし、1994年に改定された際、オペレーションリサーチではなく、カイゼンを実施するための標準プロセスが提唱されたのです。日本がものづくりの現場の作業工程に取り入れていたカイゼンを、アメリカはシステムエンジニアリングに応用したのです。
やはりアメリカは進んでいますが、世界中の良いものを取り入れながら進化しています。今は、日本がアメリカのいいところを、導入しようとしているときですね。
※ 現場の従業員が中心となって意見やアイデアを出し合い、効率化を図る取り組み