白坂教授:せりかさんがおっしゃるように、高解像度のSAR衛星画像はデータ容量が大きいので、ImPACTでは高速通信機の開発を行いました。また、衛星が地表を観測した後に、軌道上でデータを処理して、必要な情報だけを地上に送信する「オンボードディープラーニング」の導入も検討していました。
例えば、発災時に通れる道路の情報を軌道上で抽出して、地上に送ることはできます。しかし、あらかじめ設定している情報しか得られないので、同じ場所の階段はどんな状況かと聞かれてもわからず、もう一度衛星で画像を観測しなければならないのです。本質的な課題を解決するには、元のデータ容量が大きいSAR衛星画像であっても、すぐに地上に送信できる仕組みを開発することが、重要になっていくでしょう。
せりか:台風が引き起こす洪水や土砂崩れなどの自然災害の場合は、あらかじめ台風の進路から危険性が高い場所を特定して、衛星による観測ができるのではないかと思います。一方で、地震のようにいつどこで起きるかわからない自然災害においては、情報提供にかかる時間を短縮していくのは難しそうですね。
白坂教授:ご推察の通り、現状、災害が起きたときに、被災した場所を見つけ出すことが難しいという問題があります。
そこで私たちは、例えば海や川にセンサを取り付けて、水位が変化したら、人の手を介さず衛星に直接観測の指示を出せるようなシステムの構築も、ImPACTで検討しました。現在は災害が起きると、自治体の職員が現地へ確認に行っているので、被災地の状況把握に時間がかかっています。しかし、衛星に自動で観測指示を出せる仕組みが実現すれば、人が介在することでかかる時間を短縮できるのです。ただし、今の日本の法制度では、こうした取り組みは許可が得られない状況です。
このようにレスポンシブネスを考えるには、全体を設計しなければならず、技術だけではなく法制度の課題なども見えてきます。局所最適ではなく全体最適を考えることで、テクノロジーの活用により目的を実現できる仕組み作りの可能性を、ImPACTでの活動で実感しました。
せりか:白坂先生がご専門とされているシステムデザイン・マネジメントに繋がってくるわけですね!
相互作用を研究する学問、システムデザイン・マネジメント
せりか:システムデザイン・マネジメントの「システム」とは、どのようなものを指しますか?白坂教授:日本では、システムというとITのイメージが強いと思います。日本に限らず、実は世界の多くの国で同じような認識が持たれています。システムは大きく二つ、人が作り出した「エンジニアードシステム」と、自然界に元々存在している「ナチュラルシステム」に分かれます。どちらも複数の要素があり、それらが相互に作用することで、何かが生まれていることが共通しています。
こう言ってしまうと、世の中のほとんど全てのものはシステムになってしまいますが(笑)。コミュニティは人と人との作用があるのでシステムだと言えますし、法律も複数のルールでできているので、システムだと言えますね。慶應義塾大学大学院のシステムデザイン・マネジメント研究科には、幸福学を研究している先生もいらっしゃいます!