マネー

2023.08.16 08:00

なぜあなたは日本でビジネスを? 世界のひとに聞いた「お金」のこと

高専で機械工学を学び、「航空宇宙エネルギー」コースがあった東京農工大学に3年生から編入し、大学院に進んだ。当初はパイロットを目指す気持ちも残っていたが、彼女の関心は祖国のエネルギー問題へ傾いていく。

「セネガルには電気がない地域が多くあります。でも太陽の光はたっぷりある。だから太陽光発電を研究テーマにしようと決めました」

ミラーを使って太陽光を集め、それを効率よく電気に変えるシステムを模索。実験と計算の日々を送った。さらに「ここは農工大だから農学系の授業も取らなくてはいけなくて」専門外だった食料安全保障を学び、FAO(国連食糧農業機関)にインターンシップに行ったことが進路を決めた。

「セネガルの農業が抱える問題を知りました」

例えばマンゴー。セネガル南部のマンゴー農家では、収量の7割を市場に出す前に腐らせてしまっている。フードロスが半端ない。あるいはジャガイモ。セネガル産のジャガイモはヨーロッパの食品会社に1kg当たり250西アフリカCFAフラン(日本円で約50円)で買いたたかれ、キロ2000西アフリカCFAフラン(約400円)の冷凍フライドポテトに加工されてセネガルに戻ってくるのだという。そんなことをしてたらフードマイレージは無駄に増大するばかりだ。

「もったいないでしょう。農家の近くに冷蔵や加工ができる場をつくったらこの問題は解決します。電気を引くのは大変だけど、太陽光発電を使えばすぐにできます」

そうだ、それこそがアイシャさんの技術だ。発想もすばらしいが、驚くべきはそのスピード感である。2022年後半、アイシャさんはFAOのインターンとして西アフリカ事務所(在セネガル)に滞在した。その間にさっさと起業してしまったのだ。農工大のサポートを得て日本の投資家ともつながり、早くもマンゴーと玉ねぎの加工機械の開発に着手した。

「今月中には試作機ができるはずです」

すでにもうそんな段階なのかとびっくりすると、「それを改良して再来月には完成するでしょう」と続けたのでさらに驚いた。

地方の農家は貧困にあえいでいる。井戸もなく、栄養価も足りていない。子どもたちも労働を強いられ学校に行くことができない。何世代にもわたって貧困の連鎖が続いているのだ。

「私は首都ダカールで育ちましたので、その問題を知らなかった。運がよかったんです。でも知ったからにはすぐに挑戦したいですね」

キッパリ言う表情がかっこよかった。

「フフフ、私は挑戦が好きですから」

難しいことに慣れている。挑戦が好き。そう言い切る人がすごいスピードで動くとき、世の中は変わるんだろうなぁ。
祖国セネガルの村を訪ね、未電化の状況を調査するアイシャさん。太陽光発電の可能性は無限大だ。

祖国セネガルの村を訪ね、未電化の状況を調査するアイシャさん。太陽光発電の可能性は無限大だ。

次ページ > 21歳で解体業を立ち上げ、日本の3K現場を支える苦労人

文、イラストレーション=金井真紀

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事