ブルーエコノミー、生物多様性から知財、冷凍技術まで。10人の有識者や事業者とともに、現在とこれからを見つめることで見える世界とは。
「クライメートテック」経済圏
加熱するクライメートテックには、前史がある。はじまりは2006年、アル・ゴアのドキュメンタリー映画『不都合な真実』。最初のピークは08年、オバマ政権のグリーンニューディール政策時代だ。シリコンバレーの名門VCがこぞってクリーンテックに投資。「クリーンテック1.0」の盛り上がりである。そのバブルは11年ごろに崩壊した。理由のひとつは、クリーンテック企業は、イグジットまでの期間が非常に長いからだ。10年でリターンを求めるVC投資とはまったく合わなかった。ふたつ目は、投資が集まった領域がハードウェア中心だったこと。ハードウェアのビジネスで、中国の製造力に負けた。アメリカは太陽光パネルのエネルギー変換効率を追求したがその技術開発のスピードでは、中国の規模の経済を生かした価格低下に勝てなかった。
クリーンテック1.0のバブル崩壊以後、気候変動関連のスタートアップへのVC投資は枯渇したが、10年代後半に復活。19年より一気に資金が集まるようになった。転換点は、温暖化対策の国際枠組みである15年の「パリ協定」だが、そこまで投資が冷え込んだこの領域を下支えしたのは、電力会社、石油会社の資金であった。
背景に、クリーンテック1.0の開発競争による「電力の需給構造の大転換」がある。1度目のバブルでの開発競争の結果、10年代前半に、再生エネルギーの発電原価が化石燃料を下回った。地球のためだった再生可能エネルギーが経済合理性のあるものとなり、淘汰を恐れたのが欧州の巨大エネルギー会社。短期で大きく変化した需給構造に対応するため、投資をすることでスタートアップとのオープンイノベーションに踏み切った。こうした投資家の登場が、いまのクライメートテックの盛り上がりの源流にある。