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2023.07.20 17:00

10のキーワードから読み解く「新しい希望」とその未来

「グローバルヘルス」という強み

「世界の保健医療課題の解決を目指すグローバルヘルスは、新しい産業の成長戦略である」─そう提唱したのは、2021年4月に設立された「グローバルヘルスを応援するビジネスリーダー有志一同」だ。

同団体は、シブサワ・アンド・カンパニーCEOの渋澤健を代表とし、NEC特別顧問遠藤信博、豊田通商シニアエグゼクティブアドバイザー加留部淳、シスメックス代表取締役会長グループCEOの家次恒、富士フイルム社長・CEOの後藤禎一、塩野義製薬会長兼社長の手代木功、エーザイCEOの内藤晴夫、ヤマハ発動機社長の日高祥博など大企業を含めた13社の経営者たちが集う。これまで、保健医療分野のODA倍増、国際調達などにおける官民連携の強化、同分野における人材育成を提言してきた。

グローバルヘルスとは、地球上の連鎖的な健康リスクの低減に向け、国境を越え、あらゆる保健医療水準を高めること。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、グローバルヘルスに関する国際的な枠組みへの関心が高まった。各国政府に加え、国際機関や官民パートナーシップなどさまざまな団体によって、課題解決に向けたアプローチを行っており、その重要性に注目が集まっている。

同団体は23年3月に開催した「グローバルヘルス・アカデミー」第2回で、結核予防会理事長、新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂とともに「日本の強みはグローバルヘルス。いままでの実績があり、世界と競争できる領域だ。官民学での連携が重要」との発信をした。

代表の渋澤は「グローバルヘルスは企業の経済活動にもつながる。多様な領域の企業が集結する有志一同と政府とが連携し、この分野で日本が世界をリードしていきたい。また、企業のグローバルヘルスの成果を数値で可視化することで、ESG(環境・社会・企業統治)の『S』のサステナビリティ基準づくりの突破口として日本は世界に貢献できると考えている」と話している。

本格化する「ブルーエコノミー」

海全体の経済性をとらえる新概念「ブルーエコノミー」が広まっている。2030年までにブルーエコノミー関連市場規模は約500兆円。かかわる産業は広く多様だ。漁業や養殖だけでなく、石油・ガス、造船・輸送、観光業まで。洋上風力や海水淡水化など、新興テクノロジー領域も含まれる。従来の国際的な議論で主流だった、かけがえのない海を守ろうという「海の保全」論調からの大転換だ。

なぜ、いま、ブルーエコノミーなのか。海が自然資本であり、生物多様性を担保する場所だという認識への変化があった。人類の社会圏・経済圏は生態圏、つまり自然資本に支えられている。人類の活動を持続的にするために、脱炭素に続いて自然資本、生物多様性の議論が、国際的に進行した。

22年に自然資本、生物多様性の枠組みづくりが一気に動き出した。21年にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足。これは、15年発足のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の「自然版」である。TCFDがグローバルな脱炭素の潮流をけん引してきたように、TNFDでは自然資本という考え方をベースに、自然への影響度の企業開示の枠組みづくりが進む。気候変動のGHG排出量のような明確な指標がまだなく、論点の中心となっている。つまり、まだルールメイキングの途中段階にあるのだ。


竹内四季◎イノカCOO。東京大学経済学部卒業。人材系メガベンチャーを経て、2020年2月にイノカにジョインし、ビジネスサイド全般を管掌。1994年生まれ。
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イラストレーション=ローリー・ロリット

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