ものづくりの復権
ものづくりの復権のためには、ノウハウをもつ人たちが社外に可視化されることが何より重要だ。日本では、優れたインハウスの技術者ほど、スポットライトの当たる場所に出て、組織や分野横断で自由に交流する機会が少ないと感じる。一方で、多機能のモノであふれた時代において、自社が主戦場としてきた市場のみで新たな価値を創造できる可能性は極めて少ない。ひとりで、あるいは一社でものづくりに取り組むのではなく、分野横断型で構想を練り、互いがもつ技術やノウハウを出し合いながら取り組む。ものづくりの復権には、この仕組みの構築が欠かせない。
そのためには、各社や各組織が抱いている構想を可視化する場も不可欠だ。構想を具体化すればするほど、その構想を実現するために何が必要なのかが明確になり、そのニーズを満たす人や場所、組織を探そうという能動的な姿勢に切り替わる。この流れが人とノウハウの可視化の流れを後押しし、社会全体のデータベースの構築につながり、組織間の壁や分断を取り払い、人と社会の活性化を後押しする。
では、面白い仮説や構想を生み出すには、どうすればいいのか。その鍵は妄想力にある。
ローランド・ベルガーにいたとき、私は定評あるプロセスをなぞることも、ベンチマーク調査も好きではなかった。それでもトップに立てたのは、お題に対して妄想をベースに仮説を立て、「この仮説を一緒に検証したい」と提案し、本気で楽しんでいたからだと思う。
その背景にあるのは、工学博士として10年近く科学に向き合っていた経験だ。問いを見つけ、仮説を立て、その「こじつけ」の検証方法を考え抜き、手を動かしながら実証する。ものづくりに携わっている技術者にはぜひ、妄想力をフルに働かせて、その技術が世の中の人を喜ばせるものになる方法を考えてほしい。
長島 聡◎きづきアーキテクト代表取締役、工学博士。早稲田大学理工学部助手を経てローランド・ベルガーに参画。2020年3月まで同社グローバル共同代表。20年7月から現職。異能人材のコラボレーションで新規事業の量産を推進。