「解体業は日本語を使わないから、外国人が多いよ。現場は体力のある男じゃなきゃ無理だね」
建物が密集している首都圏では、ビルや家の解体に大きな重機が入れられないケースが多い。ほこりまみれ、汗まみれの手作業ができる人材が欠かせないのだ。都市建設は多くの外国人労働者に支えられている。
「足場を組んで、バール、ハンマー、チェーンソー、はつり……そういう道具で壊していく。出たゴミは木、モルタル、石こうボード、断熱材、スレート、瓦、トタン、アルミ、ガラス……と分別してトラックに積んで、処分場にもっていく」
メメットさんは歌うように、道具と材料の名前を並べた。仕事は次から次に舞い込んで、7年間休みなしで働いたという。従業員は十数人、年商は2億から3億円。
「毎日現場に出て、そのあいだもひっきりなしに電話が鳴って、その対応を全部ひとりでやりました。お金ってつまり孤独さだと思う」
「孤独さ?」
メメットさんの言葉選びは独特だった。
「自分と向き合う孤独さ。集中する孤独さ。それがお金を生む。孤独はポジティブなこと」
だが1年ほど前、気持ちが途切れてしまった。
「すごく疲れちゃった。心がもたない。原因はクレームです」
建物を壊すのだから音も出るしちりも巻き上がる。それに対して近隣住民や通行人が怒鳴り声や無理難題を浴びせてくる。
「ただ文句言いたいだけのひとたち!」
メメットさんはあきれたように言った。あぁ、なんかわかる気がする。この社会はみんなストレスを抱えていて、いつもそのはけ口を探している。つまり文句を言いやすい相手を。毎日そんなクレームを浴び続けて、メメットさんはほとほと嫌気がさしたのだと言った。
「いまの会社も続けるけど、別のこともやろうかなと考え始めている」
そう言ってふっと表情を緩めた。メメットさんはこれからも進化していく。「孤独さ」を抱きしめながら。