たしかに、抽象的であっても付加価値の根拠は持っておかなくてはいけないと思います。付加価値をつけるとすれば、たとえば、作っているAさんの技術力、思い、夢というところでしょうか。人間国宝とそうじゃない人とでは何が違うか、という話でもあります。ただ、間違えられないようにマーケティングは重要です。売れなかったら真摯に受け止めて、なぜ売れなかったのかと検証し、また価格をつけなおし市場へ……ということを繰り返します。
日本型ラグジュアリー、これからの基準
中野:そんなふうに付加価値を与えながら日本製品や伝統工芸を羽田空港から発信されていらっしゃいますが、なかでも「ラグジュアリー」というカテゴリーに入れるにあたっての、製品や体験の評価基準はどこにおいていらっしゃいますか?大西:衣食住いろんなものがありますが、テキスタイルだったら素材にストーリーがある、職人や作り手にストーリーがある、サプライチェーンにストーリーがあるということ。もちろん、グレードが他とはくらべものにならないレベルであることが最低限です。そこにどうしても欠かせないのが感性、ファッション性、美しさです。きれいなもの、美しいものを見たときに、心が動く、すばらしい、と感動する、それが必須です。
中野:エモーションに訴えかける非合理的な部分に意味があるのがラグジュアリーの特徴ですね。合理的な数字や機能だけで判断する人に「うさんくさい」と思われがちなのもまさにその点です。
大西:いまのラグジュアリーブランドひとつとっても、個性のないものも出していますので、100%完璧というのは難しいとは思います。あとはリアル店舗の場合には、接客、おもてなし、販売はホテルを超えるものにしたいですね。
中野:新幹線の掃除を終えて一斉にお礼、というような日本式に様式化された美しいおもてなしはどう見られるのでしょう?
大西:モルディブに世界で一番高いラグジュアリーリゾート、「ソネバ」があります。そのオーナーは最近よくいらっしゃるのですが、日本に来ても新幹線に乗りたくない、と言っています。日本の自然を見られる田舎のトレインでいくのがラグジュアリーであり豊かさである、と。
中野:コングロマリット的ラグジュアリーに慣れた人ほど、そちらの方向に感覚が移っていっていますね。様式化されすぎていない、自然な姿のほうに。
大西:そういうことも念頭に置いて、これからの商業、地方の開発、都心の開発はどういう方向に行けばよいかと考えるわけです。私はずっと商業をやってきたので、当事者だったらどうするかと想像するのですが、たとえばファッションだったらマルタン・マルジェラ、ドリス・ヴァン・ノッテン、ああいう類のファッションをもっと広めたいですね。