大西:そうですね。ブルガリ ホテル東京のオープニングパーティーは、どのように感じられましたか? あの世界観は20年前から変わっていないですね。客室も全部見せていただきまして、たしかにリッチ感を極めていますが、1泊400万円に値するステイタス性を超える「絶対的な価値」がもっと提案されていれば良いなと感じました。目先のブランドの色が前面に出て、本質的なものをとらえられなくなっているのかな、という印象です。巨大コングロマリットが入ると同じフォーマットになってしまいます。
中野:パーティーに海外セレブリティが来ていて、ニュースを生むという宣伝も。
大西:私はこの5年間、別の世界にいたこともあり、実はものすごく楽しかったのです。自分はこういうところにいるべきだとつくづく感じました。ただ一方では、ラグジュアリーの戦略としては、これからは違うんじゃないかな、と感じ始めています。
中野:格差を背景にしたビジネスなので、1泊30万円は世界の富裕層にはスタンダードな価格なのでしょう。お金は一時的には稼げると思いますが、格差拡大が行き着く果てにはリスクしかないので、価格が上昇し続けることには不安も残ります。日本的な感覚とは別カテゴリーの展開だと思いますが、大西さんご自身はラグジュアリーをどのように考えていらっしゃいますか?
大西:ラグジュアリーのとらえ方についてはずっとあちこちで論じられていますが、私自身は、その空間にいるだけで、豊かな感覚をおぼえて、豊かな感性、感情を身につけられ、次につないでいけるようなもの、そんなものや経験をラグジュアリーととらえています。自分に合ったもの、フィットしたものが 普段とは違うちょっと上を見たらあった、というような喜び。今までは、それを満たすものとしてヨーロッパを中心にしたラグジュアリーブランドがありました。ただ、これからは絶対それだけじゃない。
ラグジュアリーと地方創生
中野:ラグジュアリー領域では大きなお金が動き、夢や願いがこめられているゆえに、次の新しい文化を作る力や、社会課題を解決していく力もあります。たとえば、ルイ・ヴィトンが2018年に黒人デザイナーのヴァージル・アブローを採用した時、彼はゲームチェンジャーとして新しい時代の文化を作りました。多様性が一気に広まったという経緯があります。現在の海外ブランドは包摂的な社会に貢献することを謳ってはおりますが、むしろ価格をさらにつりあげることで格差社会をより補強しているようにも見えます。大西さんが羽田空港で展開されている事業では、なにか新しい社会のあり方を想定されていらっしゃいますか?
大西:ひとつは、地方創生です。まず「もの」の話をしますと、エルメスにしてもシャネルにしてもデニムをはじめ、日本の素材をいくつか使っています。地方にはたくさんいい素材があるので、それを使っていくことで地方が活性化されます。社会課題につながる、といえばサステナブルファッションを連想されがちですが、そうなると、安くて無駄がない合理的なものの話になってしまいます。それは違うかな、と。ラグジュアリー領域では、ある程度、一定の感性を超えたものじゃないとだめなので、そういうものを作っていきたいとは思っています。
たとえばデニム素材は海外のラグジュアリーブランド向けに約30億円輸出されていますが、製品の販売価格に占める原材料費のシェアはわずか10%程度です。素材メーカー、デザイナー、クリエイター、パタンナーなどオールジャパンで取り組めば、もっと日本国内の“作り手”で経済循環するのです。