大西:いま、ディオールのブランドの変遷をたどるディオール展が東京都現代美術館で開催されていますが、日本発のラグジュアリーブランドだってあれだけのものができる力や伝統、スタイルをもっているのです。それをやりたいのでジャパン・マスタリー・コレクションというブランディングを推進して空港ターミナルへの出店も検討しています。
中野:期待しています。日本の産地ブランドといえば、これまで日本はずっとヨーロッパのハイブランドに素材を提供しながら、「産地を明かさない」という植民地扱いに甘んじていました。昨年5月に、ようやくLVMHのベルナール・アルノー会長が松野博一官房長官と面会し、商品に使う日本製の素材の産地表示を検討すると言及しました。これで少しは日本の産地の名前が出るようになることを願っています。
大西:ただ、アルノーさんは賢いので、産地表示にしても、利益を考えていると思いますよ。フルーツでも和牛でも海外で「○○産」と細かい地域を明示したほうが高く売れますよね? そういうことを意識して、エリア名を出した方が、ブランドのバリューが高まると考えているでしょう。
ブランディングと価格設定
中野:一方で、産地の人が積極的に地名表示を求めていかないケースもあるようですが、それはなぜでしょう?大西:限られた範囲で商売ができてものづくりが継承されていけばいいという考えで、これはこれで大事なことなのですが、ブランディングしようという観念がないのです。
たとえば、私たちは鹿児島で蜂蜜を開発しました。鹿児島県南大隅町佐多辺塚の原生林に生息する日本ミツバチによる稀少なもので、酸味が強い、いいものです。これを帝国ホテルの元料理長はじめ食分野のプロに食べていただいたところ、100グラム=2000円が相場でしょう、と言われました。しかし、国内流通の0.1%程度という日本ミツバチの蜂蜜の稀少性と、作っている人の思いを乗せて1万円で販売しました。すると2022年度分の在庫が完売したのです。隣に2000円、3000円というはちみつが並んでいるにもかかわらず、です。
中野:合理的な価格だと凡庸に見えてスルーしますが、1万円だと何事だろうと好奇心が刺激されて手に取ってみたくなります。
大西:一部の産地の方は、そうやって自分たちの作ったものが評価されたという満足感で終わり、そこからブランディングを考えていないのです。一方で、地方の織物屋さん、素材メーカーはみんな厳しい経営です。人間国宝も厳しい生活です。この素晴らしい文化を継承させていくことが、私たちの一番大きなミッションです。そのためには、ラグジュアリーという言葉がふさわしいかどうかは別として、ブランディングというか、何か言葉をつけてあげて価値を上げていくことも必要です。
中野:価格のつけ方の秘訣を教えてください。非合理的な部分も大きいかと思うのですが、ぼったくりととらえられない、納得していただけるぎりぎりの価格というのは、どのように設定するのですか? 高付加価値の根拠をどう説明するのですか?