ラグジュアリービジネスと日本、「翻訳不能な国」の勝ち筋は

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昨年5月、LVMHのアルノー会長が訪日し、生産地やメーカー名を公表していく約束をした件ですが、この4月、LVMHの日本法人はあるプレスリリースを出しています。

それによれば、2015年、パリに設立されたLVMH メティエダールは「ラグジュアリー製品づくりに必要不可欠な優れた技術とサヴォワールフェール(匠の技)の継承と発展に重き、それぞれの産業で最高峰の技術を誇る世界的プレーヤーとの戦略的な提携や投資を行っています」とあり、この日本法人が昨年12月につくられました。同法人の案件の第一弾として、岡山県のデニム生地製造会社であるクロキとパートナーシップを締結したというのです。

このニュースから考えることがあります。もともと日本の素材の評価が高いとされながらも、その具体的な名前がなかなか出てこなかった。また、素材とアパレル最終製品の海外市場に輸出される割合が、他のどの国と比べても前者がダントツに高かった(経産省「ファッションの未来に関する報告書」76ページ)。この事実は、謎の国ゆえの現象であろうと思います。

旧型の文脈にみる司令塔的な働きをするブランド構築力、新型の文脈における市場との双方向でのコミュニケーションがつくるブランド力、その両方で十分な力が発揮できていないのでしょう。ただ、今回の広報はLVMHの方針を知るには有効ですが、日本側のソフト面がビジネス的にどう発揮されるのかに関しては、まだ判断しかねます。

LVMH会長兼CEOのベルナール・アルノー

LVMH会長兼CEOのベルナール・アルノー(中央左、Getty Images)


日本の素材に関して質が良いのは海外企業においてもほぼ合意された事実ですが、前述した日本のライフスタイルへの羨望の欠如も含め、法人ビジネス次元では、それ以外の部分に「翻訳不能」という大きな課題をかかえているのが自明です。 

これは大きく言って、言語化が十分かどうかという次元ではなく、道理の使い方、例えば、長時間労働のために低い生活の質を受容してしまう土壌が国際的コラボレーションのフォーマットに合致していないという問題なので、文化の“見せ方”として考えるべきことです。自分たちの文化を変えるのは至難の業ですが、ある目的のために文化の“見せ方”を戦略的に変えるのは実践可能なことです。

今年2月、羽田空港を使ったときはパンデミックでまだ休業の店が多かったですが、次に使うときは、ここに書いた視点から、もう少しじっくりと歩き回ってみようと思いました。ぼく自身、日本の特定の産地をテーマに動いていることは前回「丹後で考えた『中庸の究極』と英ジェントルマン文化の共通点」にも書いた通りなので、さらに探求してみます。

文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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