「どういうわけか」評価が高い 日本の陶芸が秘める価値とは

伊ファエンツァで行われた「Argillá」で日本の陶芸家を紹介する展示

9月はじめ、イタリアのファエンツァという街で日本の陶芸家4人の作品を紹介する機会がありました。京都府の伝統産業を従来とは異なるアプローチで展開を図っていくための試みです。

「京都の次世代の作家たち」として、1人は伝統的な用を足す形状のモノをつくり、他の3人は実用からは外れる、いわばアート的な表現をする作家たち。彼らの市の中心にある広場の野外テント内のテーブルに並べました。今回は、ここで得られたフィードバックから考えたことをご紹介します。

ラグジュアリー分野の変化にぼくが目を向けるようになったきっかけの一つは、文化圏によってセラミック作品の評価が異なる背景をより深く知りたいと思ったからです。『新・ラグジュアリー 文化が生み出す経済 10の講義』にも書きましたが、日本で高額の器がヨーロッパ市場では同じような価格で売れない。「当たり前でしょう!」とぼくは思っていました。茶道の文化がないところで茶道の道具が高く売れるはずがない、と。

ただ、ある時、セラミック分野のイタリアの専門家と雑談するなかで、それだけではない理由がありそうだと気づき、もっと全体のコンテクストとロジックを知りたいと思いました。6年前のことです。

セラミックはクラフトか?


ファエンツァはミラノから東南に270キロほどいったところにある、人口約6万人の街です。イタリアにいくつかセラミックの産地と称されるところがあり、ファエンツァはその一つで国際陶磁器美術館もあります。この街で2年に一度、Argilláというセラミックの祭典が開催されます。

今年も9月初めに3日間、美術館や市などの主催で街中全体が舞台になりました。ろくろを回す国際コンペティションも行われ、広場には仮設の窯も設置されます。



前回2019年の公表データによれば9万の人が訪れ、人口の1.5倍の人が何らかのかたちでこのイベントを享受しました。インパクトの大きさが想像できるでしょう。 

我々の展示スタンドには2人、セラミックを勉強しているイタリア人の女性が説明役として立ってくれました。正確な数はカウントしませんでしたが、500人程度の反応は掴めた感触があります。9割以上がイタリア人、残りがその他の欧州国の人です。

多くの質問は「素材は何か?」「どのような技法を使っているのか?」「作家の意図は?」「セラミストのプロフィールは?」です。展示の目的は、欧州内での今後のプロモーション戦略を考えるためだと説明しているので、価格に関しては、「あえて売るとすれば、いくら?」という聞き方になります。それらの質問ひとつひとつに返答を聞くと、「素晴らしい!」「興味深い」といった感想を残して去っていきます。

これらのコミュニケーションから、一つの傾向が見えてきます。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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