「どういうわけか」評価が高い 日本の陶芸が秘める価値とは

伊ファエンツァで行われた「Argillá」で日本の陶芸家を紹介する展示


この一節を読んで、スイスのIWCで伝説の時計師、クルト・クラウス氏に取材した時の話を思い出しました。パーペチュアルカレンダーを考案した同氏は、2017年の取材時において82歳でした。

1970年代にセイコーが世界初のクオーツを発表し、正確で安価な時計を大量に生産し、スイスの時計産業が瀕死に陥った時代がありました。このクオーツショックの後にクラウスがパーペチュアルカレンダー(永久カレンダー)のシステムを創り、スイスの機械式時計の世界にルネサンスをもたらすのです。以後、正確さとは別次元の「どういうわけか」が働くところで時計が評価され、スイス時計のラグジュアリー化が進んでいきます。

このような画期的なシステムをどうやって思いついたのか? という問いにクラウス氏は答えます。

「それに対する答えはもっていないのです。森の中を犬と散歩していたり、景色をボーっと見ていたりする時にアイデアをポッと思いつきます。まるで天からアイディアが降ってくるように」

自分でもわからない非合理的な形で「どういうわけか」アイデアが生まれるというこのストーリーそのものがきわめて人間的で、クオーツの正確さに勝利した「面倒な」機械式時計のルネサンスの物語をいっそうロマンティックに彩っているのです。グローバルなラグジュアリー市場で勝負するには、エンジニア的正確さとは別次元の、「どういうわけか」的な価値が求められるらしいこと、このエピソードからも伺えます。

「どういうわけか」を理論化する。これもまた挑みがいのあるテーマではありますが、言語のエンジニア的に整然と理論にしたらしたでそれはつまらないハウツーに転じてしまいそうな矛盾もはらんでいます。したがってこれを当面の間は、パーペチュアル・サムハウ(永久の「どういうわけか」)と呼んでおくことにします。

連載:ポストラグジュアリー 360度の風景
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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