「どういうわけか」評価が高い 日本の陶芸が秘める価値とは

伊ファエンツァで行われた「Argillá」で日本の陶芸家を紹介する展示


素材や技法の質問をする人は作品のクラフト観点に関心が強く、作家の意図を尋ねる人はアートとしての文脈に興味を抱いている。例えば、梅本伸司さんの表現には「このカタチは何を意図しているのか?」と興味津々の様子で聞かれました。

もちろん、両方のポイントから問いを発してくる人もいますが、これらの傾向がまさに従来のクラフトとファインアートの領域の特徴を表しています。

梅本伸司さんの作品
梅本伸司さんの作品

クラフトは素材や技法、または完成品のカテゴリーが規定されることが多いです。セラミック、紙、木、金属などをどのように加工するか。そしてそれらが食器、雑貨、装身具などとなることでカテゴリー名がつくわけです。素材、技法、完成品のどれをとっても産地の文化が関わってくるケースが多いので、「伝統文化の継承」というフレーズがよく組み合わされます。

一方、ヨーロッパの近代に生まれたファインアートも、もともと上述のクラフトを含んでいたアートから生まれています。額縁に入った絵画、壁画、彫刻、家具、銀細工などのうち、作家の独自表現にフォーカスした作品がファインアートとして区別されるようになります。その他が装飾芸術や応用美術と呼ばれ、地位としてやや低めに見られた。それが19世紀から20世紀にかけてのヨーロッパでの動向です。この流れはヨーロッパ圏外にも影響を与えましたが、ヨーロッパほどに厳然たる区別を設定することはありませんでした。

大まかに言えば、現在、ファインアートの作家はコンセプトをより優先する傾向にあります。そのあとに表現の選択がきます。絵画、写真、インスタレーションがあり、インスタレーションの場合、木か? 石か? と使う材料を考えるわけですが、今世紀のトレンドとして、セラミックも増えています。

ファインアートとクラフトの境界に関してもうひとつ、ファインアートは、批評家が作品を美術史文脈のどこに位置するかを論じ、それに基づきギャラリーが作家と歩みを共にします。しかしクラフトは、そのような仕組みとは少々距離があります。ギャラリーではなく店舗で直接販売され、そこでは批評がそれほど活用されません。しかし、このような差異をつくる構造も徐々に崩れつつあります。

クラフトとラグジュアリー


さて、ここでラグジュアリーに話を移します。今世紀に入ってのおよそ20年間、ラグジュアリー市場の形成に注力してきた米戦略コンサルタント企業のベイン&カンパニーの統計では、ファインアート市場をラグジュアリーにカウントしています。

一方、クラフトのカウントの仕方は微妙です。およそクラフト市場というものがはっきりしません。スイスの職人によってつくられる機械式時計はクラフトであり、ラグジュアリーです。あるいは有名デザイナーの家具、これもラグジュアリー市場の数に入っています。

それでは、ラグジュアリーに分類される家具と一緒に飾るセラミックの花瓶はどうなのか? 花瓶ならクラフトで、同じようなサイズの実用に適さない抽象的な形状であればファインアートで、後者がラグジュアリーのカテゴリーであると認知されるのか?
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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