ちょうど30年前、スティーブン・フレリフは全米野生生物連盟の写真編集者として記事の構成に携わり、妻のデボラはアートディレクター兼イラストレーターとして自然を生き生きと描いていた。
だが、自然や野生生物に注ぐフレリフ夫妻の愛は仕事で表現できる以上に深かった。
世界のあるがままの美しさを視覚に訴えるもので示したいという夫妻の強い思いから、ネイチャーズ・ベスト・フォトグラフィー(NBP)は始まった。フリーランスの編集者ジム・ワトソンも加わって、3人は自然写真を対象とするコンテストの開催と入賞写真の展示に発展させた。コンテストはやがて、自然界の息をのむような瞬間を切り取った写真を世に広く送り出す場となった。
「まず初めに、地球の美しさと多様性を記録するために世界中を旅する自然写真家たちへの思いがあった」とスティーブンはNBPの原動力について語る。「彼らの力強い写真や映像は自然界を探求し、楽しみ、守りたいという私たちの心にあった強い思いを呼び覚ました」

それから30年。NBPは単なる写真コンテストではなくなった。自然界に対する私たちの見方や関わり方を大きく変えた。自然の美しさを紹介するだけでなく、NBPは会話のきっかけとなり、保護活動を促す。そして、共有する世界をより深く理解しようという気持ちにさせる。

はっとするような風景から珍しい野生生物との遭遇まで、NBPは30年かけて地球のすばらしさと脆さを記録するビジュアルアーカイブを構築してきた。
30年という節目を迎えるにあたり、NBPがいかにして写真家を育て、自然に対する私たちの見方を変え、そして自然そのものの体験方法を変えながら代表的なコンテストになったのか振り返ってみたい。
多くの人の目に触れる機会を

スティーブンとデボラは、全米野生生物連盟で保護を目的とした写真に長年情熱を傾けてきた。
だが2人は何かが欠けていることに気づいた。それは自然の写真を単に公開するだけでなく、芸術として称賛し、ふさわしい敬意と多くの人の目に触れる機会をもたらす専用のプラットフォームだった。

「当時、市場に出回っていた大方の自然関連の出版物との違いは、質の高い写真に細心の注意を払い、最高品質の紙とインクで印刷していたことだった」とスティーブンは説明する。
「現場でかなりの時間を過ごして撮影するひたむきな写真家たちの作品は、カメラのシャッターが切られた瞬間が再現された状態で展示されるべきだと思った」

スティーブンらの思いから始まったこの試みはすぐに勢いを得た。その後、NBPのコンテストは世界で最も権威のある賞のひとつへと成長した。