ギリシャ、クレタ島中心部の奥深く。神話が自然界の驚異とわかちがたく結びつく地に「ヴォーヴェスのオリーブ(olive tree of Vouves)」と呼ばれる伝説的なオリーブの木がある。
少なくとも樹齢2000年とされるこの木は、もの言わぬ見張り番として、数千年にわたってさまざまな文明の栄枯盛衰を見守ってきた。ギリシャで最も著名な歴史上の人物たちよりも古くから存在していたのだ。
オリーブの木は、その実や油だけでなく、そのDNAにコードされている過酷な環境への耐久性においても、長きにわたり敬愛されてきた。これらのオリーブの木は、忍耐、知恵、継続性を象徴している。自然の神秘が薄れゆく今の世の中にあっても、ヴォーヴェスのオリーブは、過酷な状況のなかで生き続ける命があることを、私たちに改めて教えてくれる。
この木の歴史は、生命体が数千年にわたって生き続けることを可能にした進化のプロセスを垣間見る、滅多にない機会を提供するものだ。直径5m近いごつごつとした幹や、不規則に広がった枝は、時を超えて命の系譜をつなぐ、生きた証拠だ。「不死の存在」であるかのように長い時を生きてきたこの木は、まさに生物学の驚異と言える。科学者や歴史学者、そして熱心なアマチュアの自然科学ファンたちを引きつけてやまない。
歴史とともに生きるヴォーヴェスのオリーブ
ヴォーヴェスのオリーブは、生きているオリーブの木では世界最古のものの1つで、その樹齢は推定で2000年とも、最長で4000年とも言われている。もしこれらの推定のうち最も上の数字が正しいとするなら、アレクサンダー大王やピタゴラスといった歴史上の人物よりも前から地球上に存在していたことになる。
より樹齢が短い多くの木とは異なり、この木はとてつもない適応能力を示してきた。風雨に耐えてきた頑丈な幹と、複雑にからみ合う根のおかげで、このオリーブの木は、干ばつや気候変動、山火事や人間による自然破壊などに耐えながら実をつけてきた。
この木の構造は、遺伝的形質と、この木が生きてきた過酷な環境の影響という両方の要素を反映している。そのため、長寿や、長生きする種の適応に関心を持つ植物学者や生物学者にとっては、またとない研究対象となっている。
パルテノン神殿よりも古いヴォーヴェスのオリーブは、植物としての驚異的な特質に加えて、ギリシャの歴史遺産というタペストリーに織り込まれた文化的シンボルになっている。考古学者や歴史学者が発見した古代の神話や伝説では、オリーブの木を神聖なものとして語っており、ヴォーヴェスのオリーブの本当の樹齢と意義をめぐる、無数の研究や議論にインスピレーションを与えている。