ここ数年、モンゴル国に魅了され、何度か足を運んでいる。
中国の北方に位置し、ユーラシア圏の東端にある高原の国モンゴルといえば、広大な草原に羊や馬が群れる、のどかな光景を思い浮かべることだろう。
それは間違いではないが、21世紀になって首都ウランバートルで生起した都市的現実と世界に稀なる草原世界が複雑にからみ合うモンゴルならではの面白さが惹きつけるのだ。今日のモンゴルには都市と草原という2つの異なる顔があり、それを知らずしてこの国の魅力を語ることなどできないのである。


2つの異空間を往来する写真家
昨年の夏、モンゴルを訪ねたとき、1人の若い写真家と知り合った。彼が活写する現代モンゴル社会のリアルな日常は、筆者を大いに興奮させた。古臭いモンゴルのイメージを一新し、現状認識を心地よく更新させてくれたからだ。
モンゴルの写真家インジナーシ・ボルさんは、1989年ウランバートルの生まれ。国立ラジオテレビ大学在学中の2007年からモンゴルの写真家集団「ガンマ・エージェンシー」に参加して本格的に撮影を学んだ、主にドキュメンタリー写真を手がける人物だ。

2016年には、ニューヨークの国際的な写真家集団であるマグナム財団のフェローシップを獲得。100カ国以上の候補から上位15人のファイナリストに選ばれている。
彼の作品は『ナショナル ジオグラフィック』や『タイム』などの海外メディアでも掲載された。2022年、大阪の国立民族学博物館で開催された、日本・モンゴル外交関係樹立50周年記念特別展「邂逅する写真たち−モンゴルの100年前と今」では、現代モンゴルの光と影を鮮烈に捉えた作品が多数展示された。
筆者が彼の存在を知ったのも、このときだった。
インジナーシさんの作品の魅力はストリートフォトと人物ポートレイトにある。ウランバートルの華やかなクラブシーンや路地裏を歩くときも、長距離バスに何十時間も乗ってたどり着いた草原の村を訪ねるときも、彼はカメラを手離すことはない。
