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モンゴルの若きドキュメンタリー写真家が活写する世界がまだ知らないこの国の日常

インジナーシさんは同世代のミュージシャンに友人が多い。一杯飲もうと思ってウランバートル市内のレコード・バーに入ったら、知り合いのドラマーがソファーですやすやと眠っていたという(2017年)

では、そんなモンゴル社会の変化について、インジナーシさんは写真家としてどう向き合っているのだろうか。彼は自らの写真家としてのスタンスを「生活観察者」と呼ぶ。いったい何を観察しているのだろうか。彼は次のように語る。

「2018年に初めて海外に出国し、中国や香港、タイ、そして日本を訪れた。これらの国はモンゴルに比べ社会がずいぶん洗練していると感じた。とはいえ、今日のモンゴルがいいのか悪いのか、自分の答えはあいまいだ。ただ物事をありのままに見ることが自分の写真であると考えている」

なんでも彼は10代の頃、インドの思想家のオショー・ラジニーシに傾倒し、影響を受けた時期があったそうだ。彼の言う「ありのままに見る」というのは、仏教的な視点だという。

旧暦の大みそかの日の朝、息子とモンゴル相撲をとって勝ったと父親が鷹の舞いをしている様子。ウランバートル市内のゲル地区の家庭にて(2016年)
旧暦の大みそかの日の朝、息子とモンゴル相撲をとって勝ったと父親が鷹の舞いをしている様子。ウランバートル市内のゲル地区の家庭にて(2016年)

作風からすると、少し意外な気がしないでもないが、その一方「自分はハンターでもある。自分が撮りたい瞬間のために何時間でも待つことはいとわない」と彼は話す。

確かに彼が撮る人物ポートレイトやストリートフォトには固有のストーリー性が感じられる。この人物はどのような人なのか、なぜこのようなシーンが生まれたのか、それは何を意味するのか、知りたくなる。彼が写真を撮っている場面を想像するのも楽しいし、その場に自分も居合わせてみたいと思ってしまう。

彼の作品は、社会学的あるいはジャーナリスティックなモンゴル社会に対する理知的な理解はひとまず置いて、それこそ、「ありのままに」見るのがいいと思う。そして、いまのモンゴルには彼のようなセンスのある写真家が存在していて、その作品の舞台が今日の姿であることを知ってほしい。

写真集『GLIMPSE OF US』(BOR INJINAASH NOMADZ発行、3月31日刊)。問い合わせは株式会社「NOMADZ」(https://nomad-z.com/)まで
写真集『GLIMPSE OF US』(BOR INJINAASH NOMADZ発行、3月31日刊)。問い合わせは株式会社「NOMADZ」(https://nomad-z.com/)まで

最後に、彼の近況をお知らせしたい。実は、インジナーシさんは昨冬から来日しており、3月末に日本で写真集『GLIMPSE OF US』を上梓したばかりである。その写真集の作品を中心にした初めての写真展も4月3日から開催される。ご興味のある方は、ぜひ足を運んでいただきたい。

インジナーシ・ボルさんは1989年ウランバートル市で生まれたモンゴルのドキュメンタリー写真家
インジナーシ・ボルさんは1989年ウランバートル市で生まれたモンゴルのドキュメンタリー写真家

※インジナーシ・ボルさんの初めてのソロ写真展「MEETING HIGH」は、4月3日から14日まで、新宿の「OM SYSTEM GALLERY」(東京都新宿区西新宿1-24-1 エステック情報ビルB1F)で開催。
https://note.jp.omsystem.com/n/ne6987c8a3e40

文=中村正人、写真=インジナーシ・ボル、取材協力=大西夏奈子、山本千夏、HISモンゴル

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