その旋律や歌声は、どこか哀愁を帯びたロシアポップスのようでもあり、情熱的でエキゾチックな中央アジア風でもあった。
半年ほど前に東京の上野にオープンしたシルクロードウイグル料理店「シープマン」(台東区上野7-2-1)で、火曜日を除くほぼ毎夜行われるウイグル人歌手のライブを訪ねたときの話だ。
歌っていたのは中国新疆ウイグル自治区ウルムチ出身のアディンさん。ドラムスは遼寧省本渓出身の呂さんで、都内の音楽学校に通っているそうだ。
筆者はこれまでウイグルの伝統楽器による音楽を何度か聴いたことがあったが、現代ウイグルポップスを聴くのは初めてで、とても新鮮だった。音楽的にみれば、彼らの文化は中華圏とはまったく別世界、むしろユーラシア的な広がりを感じさせるものだった。
初めてウイグル料理が現れたのは?
新疆ウイグル自治区は中国最西部に位置する面積では国内最大の自治区。その名のとおり、中国でいうところのウイグル族やカザフ族、回族などのイスラム教徒や漢族、モンゴル族など異なる民族が暮らすエリアだ。
内陸性乾燥気候のため、夏と冬の気温差が大きく、周辺には万年雪を頂く高峰が連なるとともに、タクラマカン砂漠が広がり、シルクロードをつなぐオアシス都市が点在している。
その地で供される食の世界は、ブドウやザクロ、ナツメ、イチジクといったシルクロードの産品を使い、彼らにとっての主食といってもいい羊肉を調理したものである。味つけは中国の料理とは異なり、トマトやニンニク、クミン、塩などを使う素朴なものだ。
代表的なメニューとしては、コシのあるあんかけ麺の「ラグメン」、炊き込みご飯の「ポロ」、羊肉の串焼きの「カワープ」、ウイグル風肉まんの「マンタ」、そして最も基本的といえるのが、あっさり塩味の羊のスープの「ショルパ」といったところだろうか。



都内でウイグル食品や日用雑貨の輸入販売を行う貿易会社「TOMUR DAWAMAT」代表でウルムチ出身のハスエ・ヘヴェルさんは「私たちにとって羊肉は日常食。新鮮な羊肉を塩とコショウで味つけ、茹でたり焼いたり、スープにしたりとシンプルに調理したものです。食材の味そのものを楽しみたいというのがウイグル料理。遊牧民の文化なのです」と話す。