ウイグル料理店が急増した理由
筆者がなぜこうした最近オープンしたばかりのウイグル料理店を知っているかと言えば、「東京ディープチャイナ研究会」というSNSを運営しているからだ。現在7500人を超えるガチ中華を愛好する人たちが繋がるこのSNSには、日々、多くの情報が寄せられるのだが、ここ数年、ウイグル料理店の投稿が増えていた。
個性的な人たちが集まるグループだけに、彼らや彼女たちの魅力あふれる投稿を見ていると、ちょっと足を運んでみようかという動機でウイグル料理店がオープンするたびに訪ね歩いてきた。その結果、中国人経営のガチ中華とはいろいろな点でずいぶん違いがあることに気づいたのである。
たとえば、ガチ中華の定番メニューである羊肉の串焼きはトウガラシがたっぷりかかっている店が多いのだが、ウイグル料理店でカワープと呼ばれる羊肉串では、クミンや中央アジア風のスパイスが使われていて、味に深みとさわやかさがある。肉も大ぶりで、肉そのもののうまみを感じる。肉を刺す串も、ロシアのシャシリクのように木製のハンドル付きのことが多い。
またウイグル料理の「サムサ」はインドのものとは少々異なるようだ。インドのサムサはメインの具材がジャガイモで、ターメリック入りのカレー風味の揚げ料理だが、ウイグルのサムサは薄い塩味の羊のひき肉入りの窯焼きパイなのだ。

ビールのつきだしに、ナツメとナッツが出てくるのも、ウイグル料理店らしい。ソフトドリンクのメニューにミルクティーやミントティー、そしてロシアやユーラシアで広く飲まれているライ麦を発酵させたほんのり甘い微炭酸飲料のクワスがある。


では、なぜ最近これほどウイグル料理店が増えてきたのだろうか。前述のハスエ・ヘヴェルさんは「中国でウイグル料理が人気となり、各地で店が増えていることと関係がある」と話す。
「近年、中国ではウイグル観光が注目されていて、多くの旅行者が訪ね、ウイグルの食文化が国内で知られるようになりました。ウイグルの自然は雄大で美しく、そこに暮らす人たちはエキゾチック。ウイグル人は明るくオープンマインドで、コミュニケーション能力も高い。もてなしも大好きです。食事だけでなく、演奏や舞踊が楽しめることも理由となっています」(ハスエ・ヘヴェルさん)