カナダで今、あるコーヒーメニューの「リブランディング」が進められている──ただし、それは季節に合わせたメニューの変更でも、マーケティングのために行われているものでもない。文化的なものだ。
カナダ全域で、コーヒーショップがエスプレッソに熱湯を加えて作る「アメリカーノ」の名称を、「カナディアーノ」に変更している。ある1店のカフェが内輪のジョークとして始めたものが、瞬く間にカナダ中に広まっている。
コーヒーによる「抵抗」
専門誌バリスタ・マガジンによると、「カナディア―ノ」への変更が初めて公に呼びかけられたのは、2025年2月6日。ブリティッシュ・コロンビア州にあるカフェ「Kicking Horse Coffee(キッキング・ホース・コーヒー」が、インスタグラムに次のように投稿した(すでに削除されている)。
「キッキング・ホース・カフェでは16年前から、アメリカーノをひそかに『カナディアーノ』と呼んできました。私たちは今日、これを正式な名称とし、国中のコーヒーショップにも、変更を呼びかけます。一緒に始めましょう。『カナディアーノ』と呼びましょう」
このコメントが投稿されると、当初はお遊びの「国家ブランディング」のようなものだったこの名称変更は、アイデンティティや食文化に関するインターネット上での論争を招き、さらには「コーヒーの注文も意味あるものになり得る」との議論を巻き起こした。カフェの中には、このアイデアを歓迎するものも、流行をからかいおもしろがっているだけ、と捉えるものもあった。
伝統的な「食べ物と政治」の関係
「カナディアーノ」への名称の変更は、単に1つの種類のコーヒーの名前を変えようとするものではない。それは、政治的な緊張の中で食品の「ブランド名」を変更してきた、長い歴史の一部をなすものだといえる。
米国では第1次世界大戦中、「ザワークラウト」をそのルーツであるドイツから遠ざけるために、名前を「リバティ・キャベツ」に変えていた。また、2003年にはイラク戦争に反対するフランスへの抗議として、一部のレストランがフライドポテトを「フレンチフライ」ではなく、「フリーダムフライ」に変更した。
そして今、それと同じようにカナダが、「アメリカーノ」を取り巻く状況を変えようとしている。
だが、「アメリカーノ」は元々、第2次世界大戦中に米兵がイタリアに送られたことを受け、米国人たちが日常的に飲んでいたこのコーヒーの呼び名を変え、静かに自国のアイデンティティを表していたものだった。皮肉なことに、一度リブランドされたそのコーヒーがまた同じように、名前を変えられようとしているのだ。