人が予想外の行動を取ると、しばしば苛立ちを覚えることがある。たとえば、友人が急に自分を誘わなくなったり、大切な人が離れていったり、期待していたサポートを得られなかったりする状況だ。そこで本能的に「なぜそうなるのか」「何とか変えられないか」と考えてしまうが、そうした思考はストレスを増やすだけだ。
世界で最も成功したポッドキャストのホストであり、ベストセラー作家としても知られるメル・ロビンスの著書『The Let Them Theory』で提唱され、題名にもなっている「あるがまま理論」は、強力な思考転換のヒントを与えてくれる。内容はシンプルで、他人が自分らしさや望みを示したときに「気にしない・そのままにしておく」という考え方だ。認められようと追いかけたり、関係を無理につなぎ止めたりするのではなく、「現状を受け入れ、自分に集中する」ことを勧めている。
「あるがまま」とは、相手に無関心になることではない。相手の選択を尊重しながら、自分の平穏を優先するという意味である。期待にしがみつく手を緩め、本当に自分に合った人生を作る余地をつくる、ということだ。
以下に、「あるがまま理論」が平穏を取り戻すうえでどのように役立つのかを示そう。
1. 不要なストレスから解放される
他人の行動や思考、感情をコントロールしようとすると、非常に消耗する。誰かがサポートしてくれるはず、親切に応じてくれるはず、あるいは自分の期待に沿った決断をしてくれるはずと考えることは、失望につながりやすい。相手を常に管理したり影響を与えようとしたりすることは、精神的・感情的な負担を引き起こし、ストレスや苛立ち、さらには恨みにまで発展する。
「あるがまま理論」を受け入れることで、自分ではコントロールできないものをコントロールしようとする無駄な努力から解放される。誰かが思い通りに行動してくれない理由を考え続ける代わりに、「人はそれぞれ自分の選択をする」という事実を受け入れるのだ。たとえ納得がいかなくても、人にはそれぞれの理由があると認める。
たとえば、友人が以前ほど誘ってくれなくなったと感じた場合、第一の反応として「自分が何か悪いことをしたのか」と考えたり、関係を元に戻そうと必死になったりしがちである。しかし、そうした行動は不安をさらにあおるだけだ。代わりに「あるがまま理論」を実践すれば、相手の選択は相手自身のものだと認め、自分の幸せを育むことに集中できる。この思考転換は不安を減らし、自分がコントロールできること、つまり自分の反応や感情に意識を向けやすくする。
『Behavior Research and Therapy』誌に掲載された研究では、「ネガティブな感情を受け入れること」が「それを避けようとすること」と比べて、より良いメンタルヘルスにつながるかどうかを検証している。研究から得られた知見は以下のとおりだ。
・受容はストレス状況下でのネガティブな感情を減少させる。 普段から感情を受け入れる傾向のある人は、ネガティブな経験に直面しても圧倒されにくい。
・受容は高ストレス下におけるうつ病の発症を防ぎやすい。 うつ傾向のリスクがある女性を対象とした場合、感情を受け入れる人は、大きなストレス下でもうつ症状を生じにくかった。
要するにストレスが多い状況でも、感情を受け入れることはメンタル面での健康に大きく寄与する。ただし、これはスキルとして身に付けるのに時間がかかる場合もあり、効果は状況や個人によって異なる。「コントロール」ではなく「受容」を選ぶことで、抵抗から回復へとシフトできる。その結果、ストレスが減り、より穏やかな気持ちで日々を送れるようになる。