ビジネス

2024.05.25 09:15

マイクロソフト、グーグル、Uberで学んだ Figma山下祐樹CPO「私の働きかた」


──それは面白いですね。「デザインを民主化する」という観点からデザイナー以外の職業には利点が多いと思うのですが、単調な作業を効率化するという点で、従来のプロフェッショナル・デザイナーも利するということですね。次に、製品の「ローカリゼーション(地域化)」について伺いたいと思います。少し変わった角度からお尋ねしたいのですが、山下さんは今まで、母国の日本はもちろん、シンガポールやフィリピン、米国で過ごされています。これは考え方をどう変え、今の仕事にどのような影響を与えたと思いますか?
 
山下:私は幸運だったと思います。父の仕事の関係で、アジア各地で暮らしました。子供の頃に経験して良かったことの一つに、新しい国を訪れるたびに「“ルール”が異なる場合がある」ことを学べた点があります。それまで正しいと思っていたことが、新しい国では必ずしも正しいとは限らない。食事の作法でも、音を立てて食べていいかどうか、手の使い方はどうするか。そういう些細なルールも変わってきます。否応なく謙虚な気持ちにさせられます。すると、「自分の知っていることが、別の場所では間違っているかもしれない」という視点から入るようになります。その視点から入ると、バイアス(先入観)が取り除かれるのです。
 
さらに特徴的なのが「言語」だと私は考えています。私が好きな言語学に「サピア・ウォーフ仮説(Sapir-Whorf Hypothesis)」と呼ばれる言説があります。「言語とは、世界を見るための枠組み」という考え方です。世界は無限だが、言葉で分割されている。つまり、文化がそれぞれの言葉で世界を分かつのだと。だから新しい文化に触れたとき、「雨と水には2通りの言い方があるんだ」というようなことに気づいたりします。新しい言葉を学ぶことも、自分の世界観や思考を振り返る助けになります。

ウェブやUXのデザインでは、ユーザーの立場になって制作します。それは、自分がそれまで履いていたクツをいったん脱ぐことです。自分の脳をリセットして、相手の気持ちになって想像してみる──。それは、デザインでは「ユーザー共感」と呼ばれるものです。デザインの世界では特に大切なことですし、私の場合は子供の頃の引っ越しを通じて何度も考えをリセットされたことで、それを幸運にも身につけられたのだと思います。
次ページ > 多様性があれば、より良い製品を作る確率を高めることができる

文=井関庸介

ForbesBrandVoice

人気記事