大江千里(62)は、夢を追いかけ、それに追い立てられる気持ちをよく理解している。
「ジャズをやりたいという気持ちは充分に高まっていたし、ポップスでやり残したことは……でも、それを言っていたらキリがない。まだチャンスがあるからこそ、スパッとやめよう。求められているうちに、やめよう。そう思ったのです」
若い頃からジャズピアニストになることを夢見ていた彼は47歳のとき、米ニューヨークのジャズ名門校に入学を申請。試験に合格した。周りの人に背中を押され、勢いで受けたこともあり、通知が来るまでは実感がわかなかった。いざ挑戦が決まると、「大変なことになった」と、大江は当時の気持ちを振り返る。
「でも心の奥底ではチャレンジしたい、という気持ちがありました。それに50歳になったら、こんなチャンスはもうないかもしれない、と思ったのです」
1983年5月のデビュー以降、「十人十色」「あいたい」「格好悪いふられ方」などのヒット曲を連発する一方で、「夏が来た!」(渡辺美里)や「太陽がいっぱい」(光GENJI)といっいった楽曲を提供してきたシンガー・ソングライターの大江は2008年1月、単身で渡米。ザ・ニュースクール・フォー・ジャズ・アンド・コンテンポラリーミュージックを卒業後、自らのレーベル「PNDレコーズ」を立ち上げ、Senri Oe 名義で7枚のジャズアルバムを発表している。
こうして、大江はポップミュージシャンからジャズピアニストへの転身に成功した。