──すでにグローバル企業として確立されていたマイクロソフトやグーグルから、スタートアップだったUberやFigmaへ移られたのは興味深いですね。競争力が高く、官僚的な大企業から、組織も成長途上のスタートアップへの転職は、スタートアップで働く準備になったようにも思えます。
山下:キャリアを振り返って自分で「理想的だった」と言うのは簡単ですが、実際はとても幸運だったのだと思います。強いていえば、転職する時はより企業規模が小さな会社を慎重に選んでいました。マイクロソフトはグーグルより大きく、グーグルはUberより大きく、UberはFigmaより大きい。会社のさまざまなステージを経験することで、自分自身も成長できたと思います。Uberはある時点でグーグルのような企業規模になり、FigmaはかつてのUberの規模に成長しつつあります。
スタートアップに入社することで、その未来がどうなるか、ある程度想像できます。例えば、「グーグルではこうだったよ。良かった点もあれば、悪かった点もあってね。今までの良い点を残しつつ、新たに良い点を取り入れるには今できることは何だろう?」という具合に。企業文化をスケールさせるのは簡単ではありません。企業規模が大きくなると、それを解決する方法はどうしてもプロセスに寄ったり、官僚主義的になったりします。最善を尽くしたとしても、意思決定が遅くなるなどの副作用をもたらすことがあるし、リスクを取るのも難しくなる。たくさんの“未来”を見ることで、別の未来をデザインすることができます。試したいことはいくらでもあるので、悩ましいですね。
──最終製品を解析して技術や仕組みを明らかにする、いわゆる「リバース・エンジニアリング」のようなものでしょうか。
山下:そういう考えかたもできるかもしれませんね。
──そして、今はFigmaのCPO(最高製品責任者)です。企業によって役職の定義に違いがあると思いますが、Figmaではどのような役割を求められているのでしょうか?
山下:まずは従来の定義、それから私なりの定義をお話ししましょう。従来のCPOは、ロードマップが顧客のニーズやビジネスニーズに沿ったものであることを確認する責任をもつ、というものだと思います。製品の最高責任者として、エンジニアリングとビジネス、その間に立って正しいバランスを見極める。会社を成長させるだけでなく、ユーザーのためになる正しい決断を下し、可能な限り最高のUXを提供することです。最も大事なのは、顧客にとっての問題を解決し、使ってもらえる製品・サービスを作ることではないでしょうか。