ウクライナ側の発表によれば、攻撃を受けたのは全長およそ112mのロプーチャ級揚陸艦「ヤマル」と「アゾフ」。攻撃で2隻が破壊されたのだとすれば、黒海艦隊は12隻前後あった揚陸艦をさらに15%失ったことになる。
とはいえ、仮にウクライナ側がロシア海軍の艦艇を新たに2隻沈めたのだとしても、ウクライナ南部の戦線のパワーバランスを変えるには遅きに失した。
ロシアが2022年2月にウクライナに対する全面侵攻を始める前に、黒海艦隊には揚陸艦が9隻配備されていた。内訳はロプーチャ級揚陸艦6隻とタピール級揚陸艦3隻である。侵攻前後に、バルチック艦隊と北方艦隊からさらに数隻の揚陸艦が黒海艦隊に増援で送られた。
ウクライナ軍は2年にわたる激しい戦いの間に、ミサイルや、爆薬を積んだ水上ドローン(無人艇)によって、黒海艦隊のロプーチャ級揚陸艦を3隻撃沈するか大破させ(編集注:3隻は「ミンスク」「ノボチェルカスク」「ツェーザリ・クニコフ」ほかに「オレネゴルスキー・ゴルニャク」を損傷させている)、タピール級揚陸艦を1隻撃沈した。黒海艦隊に35隻ほどあった大型艦はこのほか、巡洋艦1隻、潜水艦1隻、補給艦1隻、哨戒艇数隻、ミサイルコルベット2隻もウクライナ側の攻撃で破壊されている。
これらの攻撃によって黒海艦隊の戦闘力は著しく低下し、黒海の大半の水域は大型艦の進入が難しくなった。その結果、ウクライナは黒海経由の海上輸送を再開できるようになり、経済面で大きな恩恵を得た。
だが、南部に展開しているロシアの野戦軍の補給を細らせるというもう1つの目的を果たすには、今回の攻撃はもう手遅れだった。
つい数週間前まで、ロシア軍はウクライナ南部に配置している連隊や旅団への補給で、ロシア本土とクリミアを結ぶ鉄道・道路橋に加え、黒海艦隊の揚陸艦も頼りにしていた。