ロシア軍がここへきて多用している滑空爆弾はもしかすると、爆薬を積んだFPV(1人称視点)ドローン(無人機)よりも決定的な兵器かもしれない。さらに言えば、伝統的に戦闘で最も重要とされてきた大砲よりも決定的かもしれない。
現時点で、ウクライナ側には対抗できる手段がほとんどない。ウクライナ軍の最良の防空ミサイルやその発射機は絶望的なまでに不足している。ウクライナ軍の旧ソ連製の戦闘機は、ロシア軍の爆撃機を迎え撃つにはミサイルなどの射程が短すぎる。交戦できる可能性があるのは欧州諸国から供与されるF-16戦闘機だが、まだウクライナに届いていない。
ロシア空軍のスホーイは、最大で65kmほど離れたところから誘導滑空爆弾(編集注:汎用の大型爆弾であるFAB-1500などにUMPKと呼ばれる衛星誘導キットを装着したもの。ウクライナ側では「KAB」と呼ばれている。ロシア軍が以前から保有し、もともと翼や衛星誘導装置が付いた精密誘導爆弾のKABとは別物)を1日に100発かそこら投下し、ウクライナ側の防御を組織的に破壊している。これによって、ロシア側の地上の突撃部隊は、依然として大きな損害を出しながらではあるものの前進がしやすくなっている。
ウクライナ東部の都市アウジーウカを防御してきたウクライナ軍の守備隊が2月、4カ月を超える激戦の果てに撤退に追い込まれたのも、ロシア側の誘導滑空爆弾を用いた攻撃によるところが大きかった。いうまでもなく、もう1つの大きな原因は、米議会のロシアに好都合な共和党議員らが昨年10月、ウクライナへの援助を遮断し、ウクライナ軍にとって死活的に重要な弾薬を枯渇させたことだ。
アウジーウカをめぐる戦闘が最も激しかった2月中旬、ロシア空軍はわずか2日で250発もの誘導滑空爆弾を落とした。守備隊の撤退を支援するために投入されたウクライナ軍第3独立強襲旅団の軍人、イーホル・スハルは「これらの爆弾はどんな陣地も完全に破壊してしまう」と述べている。
米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、アウジーウカ方面の滑空爆弾作戦を先例として「ほかの方面でもロシア軍の作戦が変化する」ことに期待を示したロシア側の発言を伝えていた。
そのとおりになった。ロシア軍は現在、ウクライナで占領しようとする村に対して、まず空軍が滑空爆弾による集中的な爆撃を加えるのが標準的なやり方になっている。ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは「ロシア側は(歩兵部隊の)突撃に先立って、KAB(誘導空中投下爆弾)をウクライナ側の陣地に対して用い、続いて砲兵による準備砲撃を実施する」と説明している。