欧州

2024.03.24 10:00

防御を破壊し尽くす誘導滑空爆弾、ウクライナはF-16戦闘機で対抗するしかない

安井克至
その後の突撃は「規模は比較的小さいものの、繰り返し、頻繁に行われている」という。これらの突撃は滑空爆弾による爆撃、大砲の砲撃、ドローンの展開と組み合わされると、弾薬不足のウクライナ側にとって「非常に大きな消耗」を強いるものになっているとフロンテリジェンス・インサイトは指摘している。

誘導滑空爆弾を駆使したこうした攻撃によって、ロシア軍はアウジーウカの守備隊を駆逐し、続く数週間に同市のすぐ西にある村々も制圧した。ロシア軍がさらに、アウジーウカの北90kmほどに位置するビロホリウカ村の掌握を狙っているのは明らかだ。この村に対しても誘導滑空爆弾による爆撃が増えている。

ウクライナ空軍はアウジーウカの陥落後しばらくの間、滑空爆弾を投下してくるロシア軍機に反撃していた。射程が145kmほどある米国製パトリオット地対空ミサイルシステムを用いていたとみられ、ロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機とSu-35戦闘機を2週間で計14機撃墜した

だが3月9日ごろ、ロシア軍の熟練した、あるいは少なくとも幸運なドローン操縦士は、前線から30kmほど離れた地点で、移動中のパトリオット部隊がとどまっているのを発見した。合図を受けてイスカンデル弾道ミサイルが撃ち込まれ、パトリオットの発射機2機が撃破された。その要員も死亡したとみられる。

ウクライナ空軍が失った発射機を補充するのは容易ではない。これもいうまでもなく、米国からウクライナへの援助が一部の共和党議員によって阻まれているせいだ。ウクライナ空軍は発射機2機を失ったあと、前線からパトリオットを遠ざけたとみられるが、手元の発射機が二十数基しかないのを考えれば当然の対応だ。

一方、ロシアの技術者たちは誘導滑空爆弾に手を加え、射程を以前の約40kmから約65kmに伸ばした。にわかに力関係が変わり、ウクライナ側は防空兵器によって、滑空爆弾を搭載したロシア軍の爆撃機に対抗することができなくなった。

前線で手薄になった防空を埋め合わせるのに、ウクライナ空軍のミグやスホーイを当てにすることはできない。ウクライナ空軍はミコヤンMiG-29戦闘機とスホーイSu-27戦闘機を計数十機運用するが、両機種に搭載されているN019やN001、N010系統のレーダーによる空中目標の探知距離は80〜95km程度、R-27空対空ミサイルの射程はその半分ほどにとどまる。

したがって、これらのミグやスホーイが滑空爆弾を抱えたロシア軍機と交戦するには前線上空を越えていく必要があるが、通常はそうした任務は行っていない。それにはもっともな理由がある。これらの戦闘機にはジャマー(電波妨害装置)が付いていないのだ。ロシア側の防御線付近やその内側を飛行している間、ウクライナ空軍の戦闘機はロシア軍の防空兵器に対してきわめて脆弱な状態に置かれることになる。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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