多少なりともヘビに興味がある人であれば、きっとキングコブラという名前は聞いたことがあるだろう。もし聞いたことがないというのなら、おそらく生息地である南アジアや東南アジアからはかなり離れたところに住んでいる人のはずだ。これらの地域ではいまだにキングコブラが王者として君臨し、うっそうとした森や岩の下で暮らしている。
ヘビを愛する者の一人として筆者が披露できるうんちくには、「キングコブラは世界最大の毒蛇」というものがある。だが、筆者は爬虫類や両生類の研究者でもあるので、さらにマニアックな専門知識もお伝えできる。かつてキングコブラは1つの種だと考えられてきたが、最近になって、実は4種に分かれていることが判明したのだ。この4つの種が、生物学者が言う「複合種群」を構成している。
現在では、こうした複合種群の中に、以下の4つの種が含まれるとされている。
1. ノーザンキングコブラ(学名:Ophiophagus hannah)
2. ニシガーツキングコブラ(学名:Ophiophagus kaalinga)
3. スンダキングコブラ(学名:Ophiophagus bungarus)
4. ルソンキングコブラ(学名:Ophiophagus salvatana)
これらの4種のうち、ノーザンキングコブラは「王の中の王」と広く認められている種だ。最長で18フィート(5.5m弱)に達する個体も記録されている。これは、現在生息する中では最長のヘビであるアミメニシキヘビの平均的な体長と、それほど変わらないほどの長さだ。アミメニシキヘビは一般に、20フィート(6m強)の長さにまで成長する。
(注:キングコブラは、確かにその巨体で強烈な印象を残すが、これまで知られているなかで最長のヘビと比較すると、とたんに小さく見える。それは、コロンビアで化石が発見された、先史時代に生息していた超大型のヘビ「ティタノボア(学名:Titanoboa cerrejonensis)」で、その長さはなんと47フィート(約14.3m)に達する)
だが、体長が非常に長いということが、キングコブラに関して最も意外な事実かと言えば、まったくそんなことはない。これについては、ぜひキングコブラの属名に注目してほしい。4つの種に共通する「Ophiophagus」とは、ラテン語で「蛇を食う者」という意味なのだ。
時に共食いもする、キングコブラの特異な食性
多くのヘビはげっ歯類や鳥類、カエル、トカゲなど、幅広い種類の小動物をエサとするが、キングコブラが食べる動物の種類は極端に限られている。
飢えて切羽詰まった時には他の生き物も食べるものの、キングコブラが主に食料にするのは他の種類のヘビだ。これには、アマガサヘビ属や他のコブラの仲間などの毒蛇も含まれる。実際、この非常に偏った食性が、キングコブラ属(Ophiophagus)を定義する目安の一つとなっているほどだ。

だが、熱心なヘビの愛好家のあいだでさえもあまり知られていないことだが、キングコブラがその旺盛な食欲を向ける先は、他の種だけではない。実は、自身と同じ種の仲間を共食いする事例も観察されている。「同一種内捕食」と呼ばれるこの行動は、野生と飼育下、両方の環境で記録されてきた。