だが最近、ウクライナ東部ドネツク州アウジーイウカ方面で変化がみられた。
ウクライナ軍の守備拠点だったアウジーイウカに対し、ロシア空軍のパイロットはここ数週間、40kmほど離れた場所から衛星誘導の滑空爆弾を大量に投下してきた。こうした航空支援を受けてロシア軍の地上部隊は、多大な損害を出した4カ月以上にわたる攻撃の末に、ウクライナ軍の第110独立機械化旅団を撤退させた。
ロシア軍は空から地上部隊を効果的に支援する方法をついに見いだした。今後、ウクライナのおよそ1000kmにわたる前線のほかの戦域でも同じ戦術を用いるだろう。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、アウジーイウカでの滑空爆弾作戦は「前線のあらゆる場所でロシア側の作戦が変化する先駆け」と位置づけている。
ロシア空軍は前線用の戦闘爆撃機を1000機ほど運用する。ウクライナ空軍のざっと10倍だ。だが、ロシア側はウクライナ側よりも圧倒的に大きな航空戦力を持ちながら、2022年2月の戦争拡大後、航空優勢を完全に握ることはできなかった。
英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の専門家、ジャスティン・ブロンクとニック・レイノルズ、ジャック・ワトリングは2022年11月のレポートにこう記している。「(2022年)3月上旬以降、ロシア空軍はウクライナ側が支配する空域では非常に低い高度を除いて作戦行動をできなくなった。有効性を高め、巧みに分散され、機動的なウクライナ側の地対空ミサイルシステムを確実に抑制もしくは破壊できないためだ」
戦争を拡大して最初の1年間、ロシア空軍のパイロットは前線近くを飛行する危険を冒せなかった。さらに言えば、ロシア側は安全な距離から地上部隊を支援できる長距離精密爆弾も不足していた。ウクライナ側の防空はロシア側の航空戦力の優位性を事実上、無効化していた。
しかし、こうした状況は長く続かなかった。ロシア側は重量250kgか500kg、あるいは1500kgのKAB滑空爆弾やFAB滑空爆弾に翼と衛星誘導装置を取り付け、粗製の滑空爆撃能力を開発した。ロシア空軍のスホーイ戦闘爆撃機は高高度を高速で飛行して、40km離れた目標に向けてKABを2発以上投下できるようになった。前線から40kmというのは、ウクライナ側の地対空ミサイルによって迎撃されるリスクを完全には排除できないものの、軽減するには十分な距離だ。
KABはすぐに、ロシア軍の最も恐るべき兵器の1つになった。ウクライナ軍の兵士は、前触れもなく飛来して爆発し、建物を倒壊させたり掩蔽壕を粉砕したりするほどの威力を持つ、この静かな巨大爆弾の独特の恐怖について語っている。
ロシア軍が戦闘力の大半を集中させたアウジーイウカで、KABは効果的に使用された。守備隊の主力だった第110旅団は市内に多数ある高層の建物の廃墟を高所観測所や射撃陣地として活用していた。
KABはこれらの建物の多くを組織的に破壊した。第110旅団が16日にアウジーイウカから撤退するのを支援した第3強襲旅団の軍人イーホル・スハルは「これらの爆弾はどのような陣地も完全に破壊してしまう」と述べている。「KABが1発着弾しただけで、すべての建物や構造物はただの穴ぼこになる」