ロシア・ウクライナ戦争が始まった当初、軍事アナリストの間では、ロシアはウクライナの重要目標に対する攻撃では極超音速ミサイルに大きく頼ることになるとの予測も少なくなかった。だが、高いコスト、サプライチェーン(供給網)の制約、戦場での有効性があまり高くないといった事情から、極超音速ミサイルの使用は実際にはかなり限定的なものとなっている。
代わりにロシアがウクライナに対する戦略爆撃作戦で多用しているのは、空中を徘徊して目標を探知してから自爆攻撃を行う徘徊型兵器(自爆型の無人機=ドローン)である。徘徊型兵器は安価で柔軟性があり、しかも技術的に進化している。
ウクライナ国防省情報総局(HUR)は4月、ロシアが新型の徘徊型兵器「バンデローリ(小包)」を使い始めたと報告した。この兵器の特徴は、同サイズの徘徊型兵器が一般にピストンエンジンを搭載するのに対して、ジェットエンジンを搭載している点である。
イランの「シャヘド238」がベースか
ウクライナ当局によると、ロシア軍は南部オデーサ州に対する最近の攻撃でバンデローリを使用した。ジェットエンジンの搭載により、バンデローリの最高速度は時速400〜500kmに達するとされる。
こうした兵器へのジェットエンジンの搭載は、まったく新しい試みというわけではない。たとえば、第二次世界大戦中にドイツが開発したV-1飛行爆弾もジェットエンジンを積んでいた。もちろん、現代の徘徊兵器にあるような航法制御システムは欠いていたが。
近年では、イランがジェットエンジン搭載の徘徊型兵器「シャヘド238」を開発しており、バンデローリはそのロシア版とみられている。
開発されたばかりの兵器の例に漏れず、バンデローリの技術仕様も現時点では不明な点が多く、航続距離や弾頭重量もわかっていない。大きさはイラン製「シャヘド136」のロシア版である「ゲラニ-2」と同じくらいとみられるから、弾頭重量も同程度かもしれない。
HURによると、バンデローリはロシアのクロンシュタット社とKT無人システム社によって開発された。最初に使用された正確な時期は不明だが、過去1カ月ほどの間に目撃例が増えており、とくにオデーサ州への攻撃に繰り返し送り込まれていると伝えられる。