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2024.03.03 15:00

マラソンは黄金の卵|山中伸弥教授×小山薫堂スペシャル対談(前編)

Forbes JAPAN編集部
小山:京都マラソンの応援大使もずっとされていますよね?

山中:実は大阪マラソンで初めて走ったころ、京都大学iPS細胞研究所の所長として研究資金をやりくりしなくてはいけなかったんです。国から大きな支援はいただいていたのですが、財源のほとんどが期限付きで、研究者や研究支援者の安定した雇用がままならなかった。なんと9割以上が非正規雇用だったんですよ。

どうしたものかと思案していたら、イギリスに長く住んでいた友人が帰国して「山中さん、これからは寄付だよ」というんです。イギリスのロンドンマラソンではさまざまなチャリティ団体に対して数十億円という寄付が集まるのだと。それで2012年3月に初開催された京都マラソンで、クラウドファンディングをやってみたんです。

小山:完走できたら寄付してくださいと?

山中:ええ。研究のために走りますから応援してくださいと。目標金額は100万円ぐらいでしたが、あっという間に10倍くらい集まりました。

小山:1000万円! すごい!

山中:でもお金以上に、何百人もの方々からいただいたメッセージがありがたくて。嬉うれしくて、研究所の1階に展示しました。

小山:確かに研究者って普段は外界とは遮断されていますよね。外からの応援の声がまったく聞こえない。

山中:そうなんです。京都マラソンでは応援大使の肩書もあり、ゼッケンが番号ではなくフルネームだったので、沿道から大きな声で応援されて、それも嬉しかったですね。もちろん「マラソンよりも研究頑張って!」という声もありましたが(笑)。
2016年の京都マラソンにて (C)京都大学iPS細胞研究所

2016年の京都マラソンにて (C)京都大学iPS細胞研究所

小山:不思議ですよね。研究費を集めるために走ったら寄付が集まる。でも、普段から研究をしているのに、寄付を呼びかけても集まらない。

山中:そうなんです。だからクラファンが非常に効果的で。マラソンそのものよりも、「そこまでして寄付が必要なんです!」というアピールとなって、別のかたちで寄付をいただくことが増えました。

小山:それは本当に良かったですね。

山中:日本に寄付文化は根付かないとよくいわれるけれど、実は寄付をしたいと思っている人はかなりいる。でも、どこにしたらよいか、寄付が思っている使い方をされるだろうか、迷うのではないでしょうか。

小山:ちょっと思ったのですが、マラソンって一般的に考えても辛つらいし、苦しそうな顔をして走るでしょう。だから寄付も集まるんじゃないでしょうか。これが「寄付をするためにゴルフします!18ホール回ります!」といっても、共感は得られない。

山中:(笑)。同じく4、5時間かかるのに、確かに人様の反響が全然違いそうですね。そういう意味でもマラソンは寄付にはぴったりのスポーツなんです。あともうひとつ、マラソンを走る研究者って意外と多くて。実は共通点があるんですよ。

小山:共通点?

山中:マラソンは、練習を頑張ると結構報われるんですね。練習自体も決して短期間では成果が出ず、1年くらい頑張ると10分ほど早くなる。始めたころだと1時間早くなることだってある。そして研究も5年、10年と長期間かかるものばかりで、非常に孤独で辛い時間だったりするわけです。だから、時間をかけて頑張った分だけ報われるマラソンをすることで、自らを励ましているのではないかと思います。

小山:研究者の方々がどうやって長く孤独な時間を戦い抜けるのか、少しわかった気がします。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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