食&酒

2024.02.03

師匠の使命、弟子の恩返し|三澤世奈×小山薫堂スペシャル対談(後編)

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ 「blank」に、江戸切子職人の三澤世奈さんが訪れました。スペシャル対談第11回(後編)。


小山薫堂(以下、小山):今日ご持参いただいた江戸切子のグラス、どれも本当に美しいですよね。

三澤世奈(以下、三澤):嬉しいです。

小山:グラス以外にもバリエーションがあるんですか?

三澤:ピアス、ピンズ、カフス、お猪口。あとは特別なお料理屋さんの碗ものやお鮨の付け台とか。やはり“おあつらえ”というのはやっていてすごく楽しいです。

小山:無茶振りをされたりとか?

三澤:照明器具をつくったこともありました。使い手の要望に沿いながら、自分の心地よいものをつくるのに苦戦しましたね。

小山:常々思っているのですが、使い手側のリテラシーや要求が高ければ高いほど、文化は花開きますよね。逆を言えば、お金持ちのセンスが良くないと文化は育たない。あとは誰について教わるのか、という弟子側の目利きも重要だと思うんです。三澤さんは江戸切子職人の堀口徹さん率いる堀口切子に所属されていますが、堀口さんという師匠の魅力は何ですか。

三澤:私はもともと堀口の「革新と伝統は表裏一体で、常に変化して時代に合わせたものをつくっていくべき」という考え方に共感して、弟子入りを志願したんですね。それはずっと変わりませんし、もちろん技術的なことも教えてくださいますし、古い時代の切子をネットオークションで購入して現物を弟子とともに見ながら学び合う姿勢なども尊敬しています。小山さんは現在会社を3つ経営されているそうですが、お弟子さんのように感じる方はいらっしゃいますか。

小山:そうですね、放送作家事務所の「N35」は特に師匠と弟子の関係っぽいかもしれません。僕はその人の人生がハッピーになるように導くことが、自分の使命だなと思っていて。それこそ「ゴール」って、人それぞれ違いますし、僕が思っているゴールを察してトライするのではなく、本人が良いと思えるゴールに向かってほしい。そのために師匠である僕がすべきは、なるべくたくさんのパスを出し、言ってみればセンタリングをしてあげて、ゴールを決める喜びを知ってもらうこと。それで自分なりの向かう先を決めてほしいなと思います。

三澤:素敵ですね。私はブランドを任せてもらうことで、技術以外の部分でも大きく成長できたと思いますが、やはり弟子として伝統のなかでの道筋に沿う気持ちでやってきました。いまはそこから自分なりの向かう先を模索中です。

人間国宝に共通しているもの

小山:僕、2017年から2年間、『Pen』という雑誌で「人間国宝の肖像」という連載を担当していたんです。自分でライカで撮影して、最後は写真展までさせてもらいました。

三澤:人間国宝というと、例えばどのような方々なのですか。

小山:工芸だと、蒔絵の室瀬和美さん、木工の中川清司さん、彫金の山本晃さん。それから陶芸は吉田美統さん。芸能だと、歌舞伎役者の中村吉右衛門さん、能楽師の梅若玄祥さんなどです。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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