食&酒

2024.01.01

良い料理人に愛されるということ|三澤世奈×小山薫堂スペシャル対談(前編)

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、江戸切子職人の三澤世奈さんが訪れました。スペシャル対談第11回(前編)。


小山薫堂(以下、小山2016年から18年まで3年続いた「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」は、全国から選出された約50人の匠が各界のスーパーバイザーなどからアドバイスをもらい、伝統技術に自由な発想をかけ合わせてモノづくりを行うという稀な試みでした。僕もスーパーバイザーを務めたのですが、2017年の匠のひとり、江戸切子職人の堀口徹さんが、三澤さんの師匠なんですよね。

三澤世奈(以下、三澤ええ、堀口切子に所属しています。

小山:江戸切子の職人になろうと思ったきっかけは何かあるんですか?

三澤:大学が商学部で、マーケティングを学んでいたんです。そこで堀口の手がけたポーラ社の「B.Aザクリーム江戸切子」の記事をたまたま見て。非常に美しく、江戸切子が他分野の商品になることにも衝撃を受け、弟子入りを志願しました。

小山:美大から伝統技術の世界に行くのではなく、商学部から職人になったというのがとてもユニークですね。

三澤:どうなんでしょう。職人たちの多くは江戸切子を「アート」だとは意識していないかもしれません。もっと商売人気質というか......。

小山:ご自身の感性を表現しよう!という思いはあまりないのですか。

三澤:それより「俺の切子、売れてるぞ!」みたいな。もちろん、そのなかで技術やデザインについてはみな当たり前に自信があるのですが。

小山:三澤さんは「SENA MISAWA」というご自身のブランドプロデュースもされているとか。一般的には、弟子は長い修業期間ののち、師匠の引退間際に襲名や承継、ブランド設立などをさせてもらえるような気がしますが、この若さでブランドをもっているのもすごいですよね。

三澤:堀口は新しいことをどんどんと取り入れていく人なんです。「SENA MISAWA」も、私が個人的なアート作品として、一般的な江戸切子にはない不透明な色合いやマットな質感を表現していたら、「それ、商品化したら面白いんじゃない?」と言ってくださって。

小山:素晴らしい師匠だ。自分なりの表現方法はどのように見つけたのですか。

三澤:日本料理店などで使われているような透明色の青や赤の切子は、自宅で使うには煌きらびやかすぎるなと。日常空間にもなじむトーンの切子が欲しかったんですよね。

小山:いままでこういう淡い感じはなかったんだ?なぜなかったんですか?

三澤:販売場所にも関係あるかも。百貨店だとやはり煌びやかなものが好まれます。

小山:つまり、伝統的なほうが売れる。

三澤:ええ。それで十分需要があったので、新しいものを提案する必要がなかったというのもあるかもしれません。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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