食&酒

2023.12.10

白トリュフに魅せられた人々 「白い宝石」が日本に届くまで

シェフのルカ・ファンティン氏とトリュフハンターのシルバーノ・ロベタさんとその愛犬

白トリュフの街として知られるイタリア・アルバ。近郊に住むウンベルト・パリゾット氏は、秋の深まりと共に忙しくなる。アルバの白トリュフのシーズンが始まるのは、9月下旬。そうなるとパリゾット氏は早朝3時から車のハンドルを握り、ピエモンテ州中を夜まで走り回る。1日の車の走行距離は500キロにも及ぶ。

彼の仕事は、トリュフの仲買人。このあたりではイタリア語で「トリフォラオ(trifolao)」と呼ばれるトリュフ採集のプロ、トリュフハンターからトリュフを買い付けるのが仕事だ。契約するハンターは200人強。良いトリュフが穫れた、と聞くと、ハンターの自宅や付近の駐車場などで待ち合わせて買い付ける。

1シーズンに扱う白トリュフは、なんと1.5トン。レストランで愉しむ場合は、白トリュフの質や大きさ、また店にもよるが、1グラム2000円以上というのが通常だから、膨大な額を動かす凄腕仲買人だ。

白トリュフ。類稀なる芳香を持つその希少なキノコは「白い宝石」と呼ばれることもある。このアルバでも、専用の箱やガラスのケースに入れられ、恭しく特別な料理にかけられる。

黒トリュフは栽培法が確立し、今では上質なものが以前と比べ容易に手に入るようになったが、繊細な白トリュフを栽培する方法はまだ研究途中だ。

地球温暖化によってますます収穫が少なくなる一方で、熾烈を極めるのが白トリュフの採集。日本の松茸や山菜とりと同様、地元に採集のプロがいる。他のキノコ同様、白トリュフはほぼ毎年同じ場所でとれるため、トリュフハンターたちの多くは、その場所を家族にすら話さない。他のハンターに見つかるのを恐れ、狼に襲われる危険もある夜中にトリュフ狩りに行く人もいる。まさに「命懸け」だ。

トリュフハンターの相棒は、幼犬の頃から、餌にトリュフを混ぜるなどしてトレーニングを重ね、信頼関係を築いた特別な犬だが、実は犬も命懸けだ。他のハンターが毒餌を撒き、それをうっかり食べてしまった愛犬が死んでしまった、というのは、この辺りでは珍しい話ではない。「用心のために、かわいそうだが愛犬には口輪をつける」というトリュフハンターも多い。

今回、そんな貴重なトリュフ狩りへ、来日以来14年間、毎年白トリュフを使い続けているという東京・銀座「ブルガリ・イル・リストランテ・ルカ・ファンティン」のルカ・ファンティン氏と共に同行した。長年信頼関係を築いた結果、パリゾット氏の仲介で、トリュフ狩り歴40年のベテラン、シルバーノ・ロベタさんが、特別に現場に連れて行ってくれることになったのだ。
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文・写真=仲山 今日子

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