食&酒

2023.11.03

畑の孤軍奮闘|池野美映×小山薫堂スペシャル対談(後編)

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、ワイン醸造家の池野美映さんが訪れました。スペシャル対談第10回(後編)。


小山薫堂(以下、小山僕、ワインではピノ・ノワールが一番好きなんです。でも、価格が高いし、当たり外れが大きいから、飲まなくなってしまった。だからこそ、池野さんのピノを飲んだときに、その凛りんとした優雅な香りと味わいに驚いて。

池野美映(以下、池野嬉しいです。

小山:しかも僕にも手の届く価格という、そこがまた最高で(笑)。今日、ご持参いただいたのは2019年醸造ですが、ファーストヴィンテージは何年になるのですか。

池野:試験醸造を始めたのが2009年。自分の植えたブドウ100%でしかワインを造らないと決めていたので樽たるにも入らないくらいの少量だったんですけど。一般に販売が始まったのが2014年で、ファースト ヴィンテージは2011年になります。

小山:試験醸造したものを最初に飲んだときの印象は覚えていますか。

池野:覚えています。少量は難しいとはいうものの、落ち込みましたね、かなり。

小山:予想していたものとは違ったんですね。「これはいけるかも」と手応えを感じたのは何年ごろですか。

池野:2010年にピノ・ノワール2樽、シャルドネが3樽できたんです。当時はまだワイナリーを建設していなくて委託醸造だったのですが、その醸造長さんがシャルドネをすごく褒めてくださったんですね。昔気質で厳しい方なのに、「ワイン造るの上手だね! うちより美味しいよ」って。まだ未知数ではあったのですが、その言葉が嬉しくて忘れられません。

小山:それは池野さんのブドウの品質が良かったということですか。

池野:そうだと思います。私は数年間ブドウを造ることだけに集中していたので、本当に嬉しかったですね。もうひとつ、漫画『神の雫』の原作者・亜樹直さんが「日本ワインでシリーズを描きたいが、赤白揃わないと始められない」と思ってらしたそうで、2010年の出来たてのピノを飲んで気に入っていただけたんですね。「ようやく日本編を始められる」と。このおふたりの言葉が、すごく自信になりました。

小山:「誰に評価されるか」って本当に大きいですね。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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