食&酒

2023.11.03 12:30

畑の孤軍奮闘|池野美映×小山薫堂スペシャル対談(後編)

Forbes JAPAN編集部

毎日畑に出て、先手を考える

小山:いま年間どれくらい生産されているんですか。

池野:年によりますが、平均1万本です。

小山:僕、池野さんのワインは世界中の愛好家を唸らせるようになると思う。勝手なイメージですが、ブルゴーニュ随一のテイスティング能力をもつといわれるラルー・ビーズ・ルロワに近い感じがするんです。

池野:そんな、喩えがすごすぎです!しかも私は畑でシャネルではなく、100%ユニクロですし(笑)。

小山:毎日、畑に出られるわけですよね。いつもどういう気分なのですか。

池野:楽しいです。「今日は何に出合えるかな?」とか。鳥が巣をつくっていたり、オオムラサキという国蝶が飛んできたり。畑ではブドウの状態を見ていて、これからの打ち手を探っています。

小山:獣害はありますか?

池野:山のなかなので、何でも来ます。キツネもタヌキもイノシシもシカも。産まれたての野ウサギはすごく可愛いですよ。

小山:ワイン造りのどの瞬間が一番嬉しいですか。僕だと、原稿や脚本を書いて、プリントアウトしたものを机でパンパンッと揃えるときがクライマックスだし、最も高揚するんですけど。

池野:メーカーズディナーなどでお目にかかる方が「美味しい!」と言ってくださる瞬間が最高ですね。

小山:自分が試飲するときではなく?

池野:国際ワインコンクールの審査員をずっとしていたので、自分だとどうしても厳しくなっちゃうんです。

小山:なるほど。毎日ご自分を律して生きているんですね。自分を緩めるというか、ホッとさせるものはありますか。

池野:クラシックバレエ、それと茶道ですね。茶道は、裏千家の準教授の資格をいただいたとき「お勉強になるから教えなさい」と、師匠に進言されてから教え始めました。

小山:なんと。習い始めたのはいつですか。

池野:ワイナリーを始めてまもなくです。やるべきことが山積みで忙殺されていたので、作業着から着物に着替えて静寂に身を置くことが、何よりのリフレッシュだったんです。すべてを忘れて無になれる時間......。以来、16年になります。

小山:そういう時間があってこその、あのワインの出来なのでしょうね。

今月の一皿


池野氏が持参したピノ・ノワールに合わせ、浅草の洋食店「ヨシカミ」風、ハムと玉ねぎが主役のグラタンでおもてなし。

blank


都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。


池野美映◎長野県生まれ。醸造家兼レ・パ・デュ・シャ代表取締役社長。編集者などを経て、2001年に単身渡仏。05年、国内7人目となるフランス国家資格ワイン醸造士を取得。11年、山梨県八ヶ岳山麓にワイナリー「ドメーヌ ミエ・イケノ」をオープン。

小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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