食&酒

2023.12.02 14:00

京大生がアルバイトをやめない理由

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」では、今夜も新しい料理が生まれ、あの人の物語が紡がれる......。連載第40回。 


9月9日、僕がパーソナリティを務めているラジオ番組「FUTURESCAPE」(FMヨコハマ)に対する炎上が起きた。

事の発端は番組ディレクターがXに投稿したアシスタント・ディレクター(AD)募集の文言。「朝が強い」「大学生で1年以上続けられる」「薄給でも頑張れる(重要)」という条件に対し、「年齢以外は全部クリアしてます!」「あと20若ければ」という好意的な反応もあったが、「やりがい搾取って言うんですよこういうの」「もしかして、最低賃金以下で募集かけている?」という批判が相次いでしまったのだ。

確かに「薄給」という言葉はまずかったと僕も思う。「頑張れる(重要)」も、番組リスナーであれば冗談として通用したかもしれないが、番組を知らない不特定多数の皆さんに対する配慮は確かに足りなかった。大いに反省しております。

くだんのバイト代については、準備&放送担当は7:30~11:00(3.5h)、収録&片付け担当は10:30~14:00(3.5h)と、2人体制でそれぞれ交通費込みの6000円。神奈川県の最低賃金は割らない。

また、僕は本番組を1998年から25年間続け、2003年からは歴代のADをリスナーから選んでいる。少し紹介させていただくと、初代ADの「ぱんこ」は「パンが焼ける」というのが評価ポイントで、僕が命名。

ADとして約1年半働いたあと、僕の専属秘書として放送作家事務所「N35」に入社し、09年まで働いてくれた。現在のADは20年4月から3年間勤めている中央大学の4年生「ムヒ」で、彼も来年4月にN35へ入社する予定だ(命名の由来は、スタジオで蚊に刺されたときにサッとムヒを出してくれたから)。ほかにも講談社に入社した「ターザン」、番組制作会社に入社して「YOUは何しに日本へ?」を担当している「サボテン」など、多数が番組AD時代にチャンスを掴つかんだ。

つまり、ラジオのADは、ただの雑用係ではない。業界を目指す人にとっては非常に有効なステップアップの場なのだ。僕自身も大学時代に文化放送でADを始めて、番組制作のイロハを学び、放送作家になった。それを「やりがい搾取」という一方的な言葉でもって否定したとき、やる気のある人の可能性の芽すら摘んでしまうような気がして、残念でならない。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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