東京都立大学と大阪大学の研究チームが今年、学術誌ScienceDirectで発表した研究結果からは、筋肉組織の成長と修復に関する新たな知見が示されている。研究チームは、血小板由来成長因子サブユニットB(PDGF-B)と呼ばれるタンパク質に着目し、このタンパク質が筋肉の成長に深く関係していることを明らかにした。この発見は将来、加齢による筋肉の減少を食い止めるのに役立つかもしれない。
サルコペニアとは
人間の筋肉量は、30歳を境に、10年ごとにおよそ3~5%ずつ減少し始める。こうしたサルコペニアを放置していると、運動能力の低下、そしてその延長として、全体的活動の減少を引き起こす。そうなるとたちまち、運動の困難から運動不足に陥り、さらなる筋力低下を招く、という負のスパイラルが発生する。この負のスパイラルから抜け出すのは難しい。筋力トレーニングやタンパク質の多い食事は有効だが、時間やお金がかかることも多い。医薬品による介入で、高齢者が筋肉量を維持できるようになれば、ゲームチェンジャーとなるだろう。
筋形成に重要な3つの要素
筋肉は、複雑な生物学的「機械」だ。すべての機械がそうであるように、筋肉にも、さまざまな「部品」がある。筋組織の3つの重要な構成要素は、筋芽細胞、筋管、そしてマイオカイン(骨格筋が分泌するホルモン)だ。筋芽細胞は、前駆細胞だ。筋肉の他の部分はすべて、この前駆細胞をベースにして成り立っている。筋芽細胞は、筋形成と呼ばれる筋肉の初期形成に関与するだけでなく、けがや運動後の筋肉再生にも重要な役割を果たす。どちらの場合も、筋芽細胞の束が融合して、筋管と呼ばれる大きな構造体を形成する。筋管もまた融合し、成熟した筋線維を作り出す。
筋肉が傷つくと、筋芽細胞と筋管は、傷ついた部位に融合し、傷ついた細胞と入れ替わる。これは、筋肉が成長する方法でもある。運動中に起こるような、小さくて対処可能な損傷は、新しい筋芽細胞と筋管の追加を促す。
マイオカインは、筋肉と体内の他の臓器や組織とのあいだの情報伝達で重要な役割を果たすシグナル伝達物質だ。そのため、代謝、炎症、エネルギー消費、健康全般の調節に深く関わっている。
例えば、イリシンと呼ばれるマイオカインは認知機能に関与しており、運動と脳の健康との関連を説明できる可能性がある。しかしイリシンは、これまでに発見された約600種類のマイオカインのうちの一つに過ぎない。こうしたマイオカインのほとんどは、イリシンとは異なり、正確な機能がいまだに解明されていない。