「筋肉増強剤」が若者の間でブーム、デメリットがあっても使う心理学的理由

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ウェイトトレーニングでアドレナリンが出ることは、誰もが知っている。しかし、筋肉増強剤(アナボリックステロイド)による急激な力の高まりは別の話だ。これらの物質に関わる心理学的要因について、研究は何を示しているのだろうか。

2023年のレポートは、TikTokにおけるフィットネス愛好家たちのステロイドへの関心の高まりに光を当てている。健康を害する可能性のあるこうしたボディビル用の薬を賛美し、ときには視聴者を販売者へと誘導する動画が、わずか3年の間に米国で5億8700ものビューを獲得した。さらに懸念されるのは、そのうち4億2000万ビューが、18歳から24歳の若者によるものであることだ。

筋肉増強剤の人気復活は、完璧な肉体を探求するためなのだろうか? この話は、表面的な美意識よりも深いところに関わっているようだ。ここでは、筋肉増強剤の使用に内在する心理学的な促進因子について深く探求していく。

1. 自己肯定感とサイズを直接結びつける傾向がボディビル愛好家の間にある

ボディビルダーを想像するとき、ヘラクレスのような肉体と揺るぎない自制心を思い浮かべるだろう。しかし、1995年にInternational Journal of Eating Disorders誌に掲載された古典的な研究は、この世界の持つ別の一面を明らかにしている。ボディビルダーは、陸上競技や格闘技のアスリート以上に、体に対する不満による葛藤が強い。これは漠然とした「完璧な」肉体を追い求めるだけではない。そこには、根深い心理学的な綱引きがある。

ボディビルダーは、フィットネスの目標としてだけではなく、社会的な美の基準や自分の価値をめぐる内面的な葛藤を反映して、ボディビルダーは、体の大きさと細さに対する強い意欲を口にする。スポーツに対する純粋な愛や、個人的な目標のためにトレーニングしているであろう陸上競技選手や格闘家と異なり、ボディビルダーのモチベーションは、さまざまな自己イメージと複雑に絡み合っていることが多い。

そこに筋肉増強剤が加わると、懸念の度合いはいっそう高まる。多くのボディビルダーは、主として自分のルックスを良くすること、最終的には自己肯定感を高めることを期待して、そのような薬に関心を寄せる。

競技ではないボディビルにおける筋肉増強剤の使用を常態化させようとするソーシャルメディア上のトレンドは、社会的な影響の強さだけでなく、ボディイメージの核心は精神的な構成物であり、しばしば外部からの圧力によって歪められると認識していないことを浮き彫りにする。
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翻訳=高橋信夫

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