妊婦のつわりの原因を特定、重症化予防の可能性も 英ケンブリッジ大研究

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「つわり」は妊娠中の母親が胎盤を通じて胎児から受けとる特定のホルモンに関連しているとする研究論文が、英科学誌『Nature(ネイチャー)』に掲載された。長年医学的に不明とされていたつわりの原因解明につながる研究結果であり、妊娠前の女性にこのホルモンを投与することで、重いつわりを回避できる可能性が出てきた。

成長分化因子15 (GDF 15) として知られるこのホルモンは、人間の体内で生涯を通じて産生され、食欲や吐き気を感じる脳の部位に信号を送るタンパク質で、母体の胎盤に多く含まれている。

13日に発表された英ケンブリッジ大学主導の研究によれば、つわりの重症度には、胎児が作り出すGDF15の量と、母親がGDF15の吐き気作用に対してどれだけ敏感かが直接関係している。母体における胎児由来のGDF15値は、妊娠期間(在胎期間)とともに増加し、GDF15に対する母親の感受性の高さは、妊娠前の母体のGDF15値に左右される。

GDF15はあらゆる人間の体内で産生される。その血中濃度は、加齢、激しい運動、がん、喫煙、糖尿病治療薬メトホルミンを含む一部薬剤などによって上昇することがわかっている。

つわりは妊婦の70~80%が経験する非常に一般的な症状だが、正確な原因は不明で、かつては低血糖やホルモンバランスの乱れが原因ではないかと考えられていた

ケンブリッジ大の研究チームは、GDF15の長期的な投与によって、つわりが重症化して妊娠悪阻を発症するリスクを低減できると考えている。マウスにGDF15を注射してこの理論を検証したところ、注射前にGDF15を長期投与されていたマウスでは、対照群と比較して、強い吐き気によるとみられる食欲不振の発症リスクが50%近く低下した。

GDF15にC211Gと呼ばれる珍しい遺伝子変異があると、妊娠前のGDF15値が低下し、妊娠悪阻の発症リスクが10倍高くなる。

研究チームによると、糖尿病治療薬のメトホルミンを用いて妊娠前の女性のGDF15値を上昇させる臨床試験が現在進行中。2020年にネイチャーに発表された研究では、メトホルミンを2週間服用した糖尿病患者のGDF15値は約2.5%上昇した。

胎盤中のGDF15値の上昇と、妊娠悪阻を含むつわりの重症化との関連は、今年6月に発表された査読前論文でも指摘されている。しかし、今回の研究結果は、妊娠前にGDF15への曝露を増やすことで、つわりが有意に軽減できることを発見した初めての査読付き論文だ。

医学誌『Frontiers in Medicine』に発表された研究によれば、つわりの最も重症化した病態である妊娠悪阻は、妊婦の0.3~10.8%にみられる。米国妊娠協会によると妊娠悪阻は、早産や低出生体重児と関連があり、母体に激しい吐き気、嘔吐、体重減少、電解質異常を引き起こし、入院治療が必要となることもある。つわりの症状は通常、妊娠4~6週に始まり、9~13週にピークを迎える。つわりには遺伝も関係している可能性があり、多胎妊娠だと症状が重くなることが多い。

胎盤のGDF15濃度が高くなるのは、妊娠初期の女性が催奇形性因子(胎児に先天的な異常を引き起こす可能性のある物質や要因)を含んだ食物や感染性微生物を摂取するのを防ぐためではないかと、ケンブリッジ大研究チームは考えている。同大の研究を主導するスティーブン・オライリー教授によると、妊娠初期の女性の90%以上が食嗜好の変化を経験し、主に肉やアルカリ性飲料を好むようになるという。こうした母体の変化は、進化の初期には乳児と母親の安全を守るのに役立ったかもしれないが、現代の食生活においてはあまり目的にかなっているとはいえない。

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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