健康

2023.08.26

産後うつ治療のゲームチェンジャーに? 米FDAが経口薬を初承認

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米食品医薬品局(FDA)が先ごろ、国内で出産後の女性およそ7人に1人が経験するとされている「産後うつ」の治療薬として、初めて経口治療薬を承認した。

FDAの承認を得たのは、米Sage Therapeutics(セージ・セラピューティクス)とBiogen(バイオジェン)が開発した「Zuranolon(ズラノロン、商品名はZurzuvae)」両社によると、発売は2023年第4四半期中となる見通し。

セージ・セラピューティクスによれば、ズラノロンは認知機能障害、悲しみや無力感、エネルギーの低下、自殺願望念といった産後うつの症状を「急速に改善」させる効果がある。

脳内のGABA受容体と結合し、神経ステロイドとして作用。気分障害(うつ病や統合失調症など)の原因となる神経伝達物質のバランスが崩れた状態を「リセット」するという。

この経口薬以前にFDAが承認していた産後うつの治療薬は「ズルレッソ(Zulresso)」として販売され、点滴静脈注射でのみ投与が可能な「ブレキサノロン(Brexanolone)」だけだった。

また、FDAはセージ・セラピューティクスとバイオジェンの両社に対し、成人のうつ病の治療薬としてのズラノロンの有効性について判断するため、新たに臨床試験を行うことを求めたという。米国では成人の約8.3%が、うつ病に悩まされていると推計されている。

3日で効果が出る可能性も

ズラノロンについては、2回のダブルブラインドテスト(二重盲検試験)が実施された。被験者を2つのグループに分け、一方には薬を、もう一方にはプラセボ(偽薬)を投与。さらにどちらを服用しているのか、被験者にも研究チームにもわからない状態で試験を行った。

これらの結果、50ミリグラムのズラノロンを服用した被験者は、開始から15日目にも、偽薬を服用した人たちと比べて症状が「大幅に改善していた」という。

首席治験医師を務めたニューヨークのザッカー・ヒルサイド病院のクリスティーナ・デリジアニディス医師はフォーチュン誌に対し、この薬について特に注目すべき点は「早ければ3日で、うつ病の症状に改善がみられることです」と説明している。

また、ノースカロライナ大学チャペルヒル校医学部のサマンサ・メルツァーブローディ教授(精神科)は米紙ワシントン・ポストに対し、この薬は「産後うつの治療におけるゲームチェンジャーになるでしょう」と話している。

毎年約50万人が発症

産後うつの症状は、大抵の場合、出産から2週間ほどで回復に向かい始めるとされている。だが、出産後2~3日以内に現れるというそれらの症状は、人によっては数年続くこともある(また、なかには妊娠中から発症する女性もいるという)。

周産期のメンタルヘルスに関する情報提供や支援を行う非営利団体Postpartum Support International(ポストパータム・サポート・インターナショナル、PSI)によると、米国では毎年およそ50万人の女性が、産後うつを発症すると推定されている。

ただ、症状がある母親たちのおよそ半数は、そのことを周囲に明かさないという。米国の非営利団体Policy Center for Maternal Mental Health(ポリシー・センター・フォー・マターナル・メンタルヘルス)は、米国で出産後に死亡する母親の死因のうち、20%が自殺であることを指摘している。

forbes.com 原文

編集=木内涼子

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