「日本行きのものです」とパリゾット氏が少し得意げにいう。「日本のお客様は良いものをよく知っている。香りだけでなく、形も綺麗な丸型で、大きなサイズのものを揃えています」。実際に買い付けの現場も見ても、このサイズのものは、数十個に1つあるかないかだろう。
そこには、白トリュフを愛好し、長年使い続けてきた日本のシェフとの、深い繋がりがある。
せっかくこの場にいるのだから、と、ファンティン氏は早速、日本向けのカゴの中から、香りを嗅ぎ、好みのものを選び出してゆく。丁寧に砂を払い、紙に包み、「L.F.」ルカ・ファンティンのサインを入れる。「ファンティンシェフのようなトップシェフの元に、自分たちのトリュフを届けられるのは誇り」だと、その様子を、パリゾット氏は嬉しそうに眺めている。
「きつい仕事だが、10代の頃、白トリュフを初めて見つけた時の感動が忘れられなくて、この仕事を続けている。極上のトリュフに出会った時の喜びは、今も変わらない。こうして、自分が扱うトリュフが海を超えて、素晴らしい料理として楽しんでもらえる」
何十トンという白トリュフを扱ったキャリアの中で、記憶に残るトリュフは? とパリゾット氏に尋ねると、「2019年に採れた、1キロのもの。もちろん、ルカに送ったよ」という答えが返ってきた。そのトリュフを東京で受け取り、各レストランに送るのが、パリゾット氏と共に働くリカルド・バッソ氏の役割だ。
「10年前に、トリュフの会社を作ろうと白トリュフを持ち込んだ時に、その質を見抜き、いち早く取引を始めてくれたのがファンティン氏だった。そのおかげで日本のビジネスを拡大し、トリュフだけでなく、チーズや生ハムなど、イタリア食材全般を輸入する大きな会社にすることができた」と2人は口を揃え、心から感謝しているという。
その1キロのトリュフの写真は、ファンティン氏とパリゾット氏、バッソ氏、それぞれの携帯のアルバムに、大切に保存されていた。天然だからこそ、一つひとつが一期一会。
私たちがレストランで目にする貴重な白トリュフの裏には、一つ一つの物語がある。人の手から手へ、惜しみない労力をかけて大切に届けられるまさに「馳走」なのだと、実際にその現場を見て実感した。パスタに、リゾットに。そっと削りかけられるひとひらひとひらに込められた想いと共に、大切に味わいたい。