食&酒

2023.10.05

食文化の力で海を守る。オリヴィエ・ローランジェ氏に聞く

オリヴィエ・ローランジェ氏

シェフの発言力、世界を変える力が注目されるようになって久しい。アフターコロナの新しいスタンダードとなりつつあるSDGs、地球環境の保護に向けて発信を続けているのが、世界最高級の宿やホテルが加盟するフランスの非営利組織、ルレ・エ・ シャトーの元副会長で、フランス・ブルターニュ地方で「レ・メゾン・ド・ブリクール」を営むオリヴィエ・ローランジェ氏だ。

2009年、世界550人のシェフと連携し、フランスから大西洋・地中海マグロの保護を訴え、一躍注目を集めた。現在、同エリアのマグロの数は回復を見せている。まさに、行動することで海の生態系を守ったのだ。

10月7日、8日には、水産資源の現状とサステナブルな魚介類を使うことの大切さを伝える料理のコンクール「オリヴィエ・ローランジェ国際料理コンクール」を北海道・室蘭市で開催する。ますます精力的に発信しているローランジェ氏に話を聞いた。
オリヴィエ・ローランジェ氏

オリヴィエ・ローランジェ氏

──ミシュラン三つ星に輝きながらも、2008年に星を返上。海洋資源の保護に力を注ぐようになったそうですね。

問題意識を持つようになったのは2000年頃です。漁師や科学者と話をするうちに、大西洋・地中海マグロが減っていると聞くようになったのですが、それにもかかわらず、許されている漁獲量はとても多かったのです。当時、「イフレメール(IFREMER、フランス海洋開発研究所)」という海洋保護団体があったのですが、政治家たちは海を巡る問題に耳を傾けようとしなかった。

そこで私は、2009年に世界の550人のシェフたちに、大西洋・地中海の天然マグロを使わないようにしよう、と呼びかけました。多くの人が賛同して使用をやめ、メディアがそれを報道して世論が形成された。

この活動がフランスだけではなく、ヨーロッパ全土に広がったことも幸いでした。フランス政府のやり方が良くないと、EUに申し出ることができたからです。1年半くらいでフランス政府が動き、漁獲量を減らしました。ヨーロッパは正しい判断をしたと思います。

そのおかげで、今もマグロ漁ができています。今、許可されているのは、一本釣りのマグロ。我々シェフは、その価値を伝える仕事をしているのです。

2009年に呼びかけた際には、漁業関係者から不満や脅しの言葉が届きました。でも、2年前には、彼らから感謝の言葉をかけられました。

──シェフたちの中から反対意見などは出なかったのですか?

ある日本人シェフは「マグロなしでは和食はつくれない」と反対しました。私は和食に最大限の尊敬を持っていますが、でもなぜ、マグロを地中海にまで取りにくるのでしょうか? 日本の沿岸でマグロがたくさん獲れるなら使えばいいのです。でも、地球の裏側から冷凍して運んでまでして、日本の食文化の一部と言うのは難しいと思います。
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文・写真=仲山 今日子

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